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株式による調達

プレとポストの取り違えで生まれる金額のズレ

同じ「評価額3億円」でも、プレかポストかで投資家の比率は4.4ポイント変わります。7,000株を持つ代表なら4,375万円の差。会話のどこで確認すればよいかまでを数字で整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 同じ「3億円」が、2つの意味を持つ
  2. 数字で見る|4.4ポイントの差
  3. なぜ取り違えが起きるのか
  4. 会話のどこで確認するか
  5. 投資家側からは、どう見えているか
  6. ポストマネーで合意するほうが、ずれにくい
  7. ストックオプション枠が入ると、もう一段ずれる
  8. 転換前の投資があると、さらに複雑になる
  9. タームシートの読み方
  10. 金額に直して確認する
  11. よくある誤解
  12. 合意した内容を残す
  13. チェックリスト
  14. よくある質問

同じ「3億円」が、2つの意味を持つ

「評価額3億円で7,000万円の出資」という話をしているとき、3億円が出資を受ける前の金額なのか、受けた後の金額なのかで、渡す株式の量が変わります。

前者がプレマネー、後者がポストマネーです。言葉としては知られていますが、会話のなかでどちらの意味で使われているかは、明示されない限り分かりません。

プレマネーその回の出資を受け取る前の、会社全体の評価額。
ポストマネーその回の出資を受け取った後の、会社全体の評価額。プレマネー+調達額。
1株あたり金額プレマネー ÷ 発行前の株数。ここから発行株数が決まる。
タームシート投資の主な条件をまとめた書面。法的拘束力の範囲は書面による。
この章の要点

プレとポストは調達額のぶんだけ違います。どちらで話しているかは、明示されない限り分かりません。

数字で見る|4.4ポイントの差

発行済が11,200株の会社が、7,000万円を調達する場面で比べます。

プレマネー3億円の場合 ポストマネー3億円の場合
プレマネー 3億円 2億3,000万円
ポストマネー 3億7,000万円 3億円
1株あたり金額 26,786円 20,536円
発行する株数 2,613株 3,409株
投資家の比率 18.9% 23.3%
18.9%プレで3億円
23.3%ポストで3億円
4.4ポイント差

同じ「3億円」「7,000万円」という言葉で、投資家の比率が4.4ポイント違います。創業者側から見れば、それだけ持分が減るということです。

金額に直すと、ポストマネーが3億7,000万円の会社で4.4%は約1,630万円にあたります。言葉の確認を怠るだけで動く金額としては、小さくありません。

この章の要点

同じ数字でも4.4ポイント、金額にして約1,630万円の差が出ます。

なぜ取り違えが起きるのか

単なる不注意ではなく、構造的な理由があります。

2つ目と3つ目が重なると、お互いが自分の慣れた前提で話したまま、合意したつもりになります。タームシートを作る段階で初めて食い違いが表面化し、そこから交渉をやり直すことになります。

クロージング直前に発覚すると、痛い

ずれに気づくのが遅いほど、修正の余地が小さくなります。すでに他の投資家へ条件を伝えていたり、社内で説明していたりすると、後戻りが難しくなります。最初の会話で確認するだけで避けられる種類の問題です。

この章の要点

投資家はポスト、会社はプレで考えがちです。お互いが自分の前提のまま合意したつもりになります。

会話のどこで確認するか

確認の仕方は簡単で、数字が出た最初のタイミングで聞くだけです。

場面 確認の仕方
相手が金額を出したとき 「その3億円は、プレとポストのどちらでしょうか」
自分から出すとき 「プレマネー3億円で考えています」と先に言い切る
メールでやり取りするとき 「プレ3億円・調達7,000万円・ポスト3億7,000万円」と3つ並べて書く
タームシートを受け取ったとき 記載がプレかポストかを読み、1株あたり金額から逆算して確かめる

3つ目の「3つ並べて書く」のが、もっとも確実です。プレ・調達額・ポストを同時に書けば、どちらの意味かを問う余地がなくなります。

聞くことに遠慮は要りません。投資家にとっても、認識がずれたまま進むのは避けたい事態です。早い段階での確認は、むしろ丁寧な進め方として受け取られます。

この章の要点

プレ・調達額・ポストを3つ並べて書く。これだけで取り違えは起きません。

投資家側からは、どう見えているか

相手の立場から見ると、この論点の意味が分かりやすくなります。

投資家は通常、「このラウンドで何%取るか」から考えます。ファンドの設計上、1社あたりに投じる金額と、期待する持分の範囲がある程度決まっているためです。「7,000万円で20%」という形で考えることになります。

この考え方は、そのままポストマネー基準です。比率を先に決めれば、ポストマネー評価額は自動的に決まります(7,000万円 ÷ 20% = 3億5,000万円)。プレマネーは、そこから調達額を引いた残りです。

一方、会社の側は「いまの会社の価値はいくらか」から考えます。こちらはプレマネーの発想です。同じ交渉を、両者が別の入口から見ていることになります。

投資家の入口 会社の入口
先に決めるもの 取る比率 いまの会社の価値
自然に出てくるもの ポストマネー プレマネー
調達額が動いたとき プレマネーを調整する 比率を調整する

これが分かっていると、交渉の進め方が変わります。相手が比率から話しているなら、こちらも比率で返したほうが噛み合います。プレマネーの金額だけを押しても、相手の判断基準に届きません。

「何%までなら渡せるか」を先に決めておく

投資家が比率から考えるなら、会社の側も「今回は何%までなら渡せるか」を先に決めておくと話が速く進みます。評価額の金額を守ろうとするより、希薄化の上限を決めるほうが、次のラウンドまで含めた設計がしやすくなります。

この章の要点

投資家は比率から、会社は金額から考えます。相手の入口に合わせて比率で返すほうが噛み合います。

ポストマネーで合意するほうが、ずれにくい

どちらで合意しても構いませんが、ポストマネーを基準にするほうが、後の計算がずれにくくなります。

理由は、投資家の比率が直接決まるためです。ポストマネー3億円で7,000万円なら、投資家の比率は7,000万 ÷ 3億 = 23.3%。この数字は、他に何を足しても動きません。

プレマネーを基準にすると、調達額が変わるたびに比率が変わります。追加の投資家が入って調達額が増えれば、最初の投資家の比率も変わる計算になります。

プレマネー基準 ポストマネー基準
先に決まるもの 発行前の評価額 投資家の比率
調達額が増えたとき 比率が変わる プレマネーが下がる
創業者にとって 調達額を増やすと薄まる 希薄化の上限が先に決まる

ポストマネー基準では、調達額が増えるとプレマネーのほうが下がります。つまり「会社の評価が下がった」ように見える形になります。数字の見た目は悪くなりますが、希薄化の幅が先に確定するという利点があります。

この章の要点

ポストマネー基準なら希薄化の幅が先に確定します。調達額が動いても比率は変わりません。

ストックオプション枠が入ると、もう一段ずれる

実務でさらに厄介なのが、ストックオプションの枠をどちらに含めるかです。

「プレマネー3億円」と言うとき、その3億円を割る株数に、これから設定する枠を含めるのか含めないのかで1株あたり金額が変わります。

投資家は前者を求めることが多くなります。「プレマネー3億円」で合意していても、枠の扱い次第で創業者の持分は変わります。

確認すべきは、「プレかポストか」に加えて「1株あたり金額を出すときの分母に何が入るか」です。ここまで確認して、はじめて数字が固まります。

この章の要点

プレかポストかに加えて分母に枠を含めるかを確認してください。ここでもう一段ずれます。

転換前の投資があると、さらに複雑になる

J-KISSなど転換前の投資がある場合、その転換分を分母に含めるかどうかという論点が加わります。

含める場合、1株あたり金額が下がり、新しい投資家の株数が増えます。含めない場合、転換分は新しい投資家と一緒に希薄化を受けることになります。

分母に含めるもの 1株あたり金額 誰が負担するか
発行済株式だけ 高い 枠と転換分の希薄化を全員で負う
+ 未行使の新株予約権 中 既存株主の負担が増える
+ これから設定する枠 低い 既存株主の負担がさらに増える
+ 転換前の投資の転換分 最も低い 既存株主がすべて負う

実務では、この4段階のどこで合意するかが交渉の中身になります。「プレマネー3億円」という言葉だけでは、何も決まっていません。

この章の要点

分母には4段階の選択肢があります。どこまで含めるかが、実際の交渉の中身です。

タームシートの読み方

条件がタームシートに落ちたら、金額の記載から逆算して確かめます。

確認する項目 読み取ること
評価額 プレかポストか。明記されているか
調達額 今回の総額。複数の投資家の合計か、1社分か
1株あたり金額 記載があれば、そこから分母を逆算できる
発行株数 調達額 ÷ 1株あたり金額と一致するか
発行後の比率 記載があれば、自分の計算と一致するか
枠の扱い ラウンドの前に設定するか、後か

1株あたり金額が書かれていれば、評価額 ÷ 1株あたり金額で分母が逆算できます。その数字が、自社の発行済株式数と一致するのか、枠を含めた数字なのかを見れば、前提が分かります。

逆算した分母が自分の把握している株数と合わない場合、そこに何かが含まれています。必ず確認してください。

この章の要点

評価額 ÷ 1株あたり金額で分母が逆算できます。自社の株数と合わなければ、何かが含まれています。

金額に直して確認する

比率の議論は抽象的になりがちです。最後は金額に直して確認してください。

先ほどの例で、代表が7,000株を持っているとします。

プレ3億円 ポスト3億円
1株あたり金額 26,786円 20,536円
代表の持分の金額 1億8,750万円 1億4,375万円
差 4,375万円

同じ会社、同じ日、同じ7,000株。言葉の解釈だけで4,375万円の差が出ます。比率のままだと「4.4ポイント」という小さな数字に見えますが、金額に直すとそうではありません。

この章の要点

比率ではなく金額に直して確認してください。4.4ポイントは、この例では4,375万円です。

よくある誤解

1.「プレのほうが会社に有利」とは限らない

同じ金額ならプレのほうが有利ですが、交渉では金額そのものが動きます。「ポストで3億5,000万円」と「プレで3億円」なら、後者のほうがポストは3億7,000万円で、会社に有利です。数字と定義をセットで比べてください。

2.「タームシートに書いてあるから大丈夫」ではない

タームシートに評価額が書かれていても、分母の定義まで書かれているとは限りません。1株あたり金額か、発行後の比率のどちらかが書かれていなければ、まだ確定していないと考えてください。

3.「後で調整すればよい」は通らない

タームシートで合意した条件を後から動かすのは、実務上かなり難しくなります。合意する前に確認するしかありません。

この章の要点

誤解は3つ。数字と定義はセット・分母まで書かれているか・後からは動かせない。

合意した内容を残す

確認した内容は、その場のやり取りで終わらせず、記録に残してください。

とくに4つ目です。次のラウンドで「前回はどういう前提だったか」を聞かれる場面は必ず来ます。そのとき再現できないと、説明に時間がかかります。

この章の要点

確認した内容はメールと資本政策表の履歴に残します。次のラウンドで必ず参照されます。

チェックリスト

評価額の話が出たら

  • その金額がプレかポストかを、その場で確認した
  • プレ・調達額・ポストの3つを並べて書いた
  • 1株あたり金額を出すときの分母を確認した
  • 分母に、これから設定する枠が含まれるかを確認した
  • 転換前の投資がある場合、その扱いを確認した
  • 発行株数が、調達額 ÷ 1株あたり金額と一致することを確かめた
  • 自分の持分を、比率ではなく金額に直して確認した
  • 合意した内容をメールで残し、相手の返信をもらった
  • 資本政策表の履歴に、前提を含めて記録した
この章の要点

最初の1つで9割が防げます。金額が出たら、その場で聞く。

よくある質問

Q. 日本ではどちらが一般的ですか
当編集部で確認できる統一的な慣行はありません。投資家によって異なるため、一般論で判断せず、そのつど確認してください。
Q. 「バリュエーション3億円」とだけ言われたら
どちらか分かりません。「プレとポストのどちらでしょうか」と聞いてください。聞きにくい場面であれば、自分から「プレ3億円・調達7,000万円・ポスト3億7,000万円という理解でよいでしょうか」と確認する形にすると自然です。
Q. 複数の投資家が入る場合、どう計算しますか
今回の調達額の合計で計算します。ポストマネー基準なら、合計額 ÷ ポストマネーが今回の投資家全体の比率です。各社の比率は、その中を出資額で按分します。
Q. プレマネーを高く見せたいのですが
ポストマネー基準で合意すれば、調達額が増えるほどプレマネーは下がります。プレマネーの数字を優先すると、比率が後から動く余地が残ります。どちらを取るかは、対外的な見え方と、希薄化の確定のどちらを重視するかで決めてください。
Q. 1株あたり金額が端数になる場合は
実務では切りのよい金額に調整することが多くなります。その結果、評価額が端数になるか、発行株数が端数になります。どちらを合わせるかで結果が変わるため、調整の方法も確認してください。
Q. 前回のラウンドの評価額と比べるときは
同じ基準で比べてください。前回がポストマネー、今回がプレマネーだと、上がったように見えて実際は下がっていることがあります。資本政策表に前提を記録しておく理由がここにあります。
Q. 枠を分母に含めることを断れますか
交渉の余地はあります。含める場合でも、枠の大きさそのものを採用計画から積み上げて説明できれば、過大な枠を前提にされることは避けられます。
Q. タームシートに法的拘束力はありますか
書面の定め方によります。全体を拘束力のないものとしつつ、独占交渉や秘密保持の条項だけ拘束力を持たせる形が多く見られます。拘束力の範囲は必ず確認してください。
Q. 取り違えに気づいたのが遅かった場合は
気づいた時点で相手に伝えてください。進めたまま署名すると、その条件で確定します。伝えるのが早いほど、調整の余地があります。
Q. 社内の誰と共有しておくべきですか
交渉に関わる人全員です。代表だけが前提を把握していると、別の場で異なる説明がなされ、相手の混乱を招きます。数字を出すときの前提を、社内で1つに揃えてください。
Q. 希薄化の計算とあわせて確認するには
希薄化の計算の記事にシミュレーションのシートを置いてあります。プレとポストのどちらで入れるかを変えて比べると、差が金額で見えます。
Q. この確認をすると、警戒されませんか
なりません。数字の前提を揃える作業は、双方にとって必要なものです。むしろ確認せずに進めて後から食い違うほうが、相手の時間も失わせます。
出典

  • 会社法 第199条(募集事項の決定)、第201条(公開会社における募集事項の決定の特則)— e-Gov法令検索
  • 経済産業省「新規事業の創造・拡大」— 経済産業省