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高額商材が失注する理由は、価格ではなく支払い方

「300万円は出せない」と「300万円を一度に出せない」は違います。金額が決めているのは価格ではなく決裁の階層。年間支出で見る会社なら、分割で階層が変わります。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 失注の理由が「高い」とは限らない
  2. 金額が決めているのは、価格ではなく決裁の階層
  3. 数字で見る|決裁権限の壁
  4. 数字で見る|分割で階層が変わる
  5. 「稟議が重くなる」という失注
  6. 資本的支出になると、さらに重くなる
  7. 失注の理由を正しく聞き出す
  8. 価格が理由なら、どうするか
  9. 支払い方が理由なら、どうするか
  10. 決裁が理由なら、どうするか
  11. 失注してから分かることもある
  12. 提案の段階で組み込んでおく
  13. 分割を用意するときの自社側の準備
  14. 後払い・分割を外部の仕組みで用意する
  15. 複数年契約という選択
  16. 提案する時期を選ぶ
  17. 判断の手順
  18. チェックリスト
  19. よくある質問

失注の理由が「高い」とは限らない

高額商材が決まらなかったとき、報告には「価格が合わなかった」と書かれます。しかし実際には、価格ではなく支払い方が理由だったことがあります。

「300万円は出せない」と「300万円を一度に出せない」は違う

前者なら値引きが必要ですが、後者なら支払いを分けるだけで解決します。この2つは、商談の中では同じ言葉で出てきます。

決裁権限金額に応じて誰が承認するかを定めた社内規程。
稟議社内で承認を得るための文書と手続き。
資本的支出資産として計上し、耐用年数にわたって費用化する支出。
この章の要点

「高い」と「一度に出せない」は、違う問題です。

金額が決めているのは、価格ではなく決裁の階層

金額が上がると 何が起きるか
承認者が上位になる 会ったことのない人が判断する
稟議の書式が重くなる 相見積もり・稟議書・説明資料
関係部署の合議が必要になる 情報システム・法務・経理
取締役会の決議が必要になる 開催を待つことになる
時間がかかる 数週間〜数か月
途中で止まる確率が上がる 誰か1人が反対すれば止まる
金額が上がるほど、決まらない確率が上がる

価格が妥当でも、承認の階層が増えるほど、どこかで止まる確率が上がります。これが高額商材の本当の難しさです。

この章の要点

金額が上がると、止まる確率が上がります。

数字で見る|決裁権限の壁

典型的な決裁権限の例です。金額の区切りは会社によって異なります。

金額 承認者 必要なもの
〜50万円 課長 簡易な申請
〜100万円 部長 稟議書
〜300万円 役員 稟議書+相見積もり
〜1,000万円 取締役会 議案として上程
300万円の提案は、役員決裁の入口にある

提案額300万円は、ちょうど階層が変わる金額です。わずかに超えるかどうかで、必要な手続きも承認者も変わります。

だから、相手の決裁権限の区切りを知ることに価値があります。「いくらを超えると、誰の承認が必要ですか」と聞いてください。

この章の要点

決裁権限の区切りを聞いてください。

数字で見る|分割で階層が変わる

300万円の提案を、支払い方で分けた場合の年間支出です。

支払い方 月々 年間の支出 該当する階層
一括 — 300万円 役員
12回 25万円 300万円 役員
24回 12.5万円 150万円 役員
36回 約8.3万円 100万円 部長
300万円一括の場合の年間支出
100万円36回払いの場合
年間の支出額で決裁が決まる会社なら、階層が下がる

36回に分ければ年間100万円です。「年間の支出額」を基準にしている会社なら、部長決裁の範囲に入ります。

ただし、会社によっては「契約総額」で判断します。その場合、分割しても300万円の稟議です。どちらの基準かを、相手に確認してください。

この章の要点

年間支出か、契約総額か。基準を確認してください。

「稟議が重くなる」という失注

担当者が直面すること 結果
稟議書を書く手間 後回しになる
相見積もりを取る必要 競合を呼ぶことになる
関係部署への説明 時間がかかる
役員への説明 失敗したときの責任
他の業務との優先順位 —
担当者にとっては「面倒だから今じゃなくていい」

必要性を認めていても、手続きの重さで後回しになります。そして年度が変わり、担当者も変わり、話は消えます。

だから、担当者の手間を減らすことが、そのまま受注確率に効きます。稟議書に貼り付けられる資料、相見積もりの比較表、想定問答を用意してください。

この章の要点

担当者の手間を減らすことが、受注確率を上げます。

資本的支出になると、さらに重くなる

項目 費用処理 資産計上
今期の損益への影響 全額が費用 減価償却分だけ
稟議の重さ 通常 設備投資として重くなる
関与する部署 担当部署 経理・固定資産管理
資産の管理 不要 台帳への登録・棚卸
除却時の手続き 不要 必要
資産計上になると、手続きが一段増える

ソフトウェアや設備が資産計上の対象になると、設備投資の稟議として扱われ、経理や固定資産管理の部署が関与します。その分、時間がかかります。

費用処理か資産計上かは、金額と内容、相手の会計方針で決まります。こちらから断定せず、相手の経理部門に確認してもらってください。判断が変わると、稟議の道筋も変わります。

この章の要点

資産計上になると、手続きが一段増えます。

失注の理由を正しく聞き出す

聞き方 分かること
「価格そのものでしょうか、支払い方でしょうか」 2つを分ける
「どの段階で止まりましたか」 担当・部長・役員のどこか
「決裁はいくらから誰の承認ですか」 階層の区切り
「年間の支出額と契約総額、どちらで見ますか」 分割が効くか
「他に何があれば通りましたか」 足りなかった材料
「時期を変えれば可能性はありますか」 再提案の余地
失注の直後がいちばん聞ける

断る側にも気まずさがあり、「次につながる質問」には答えてもらいやすいものです。感情的にならず、事実を聞いてください。

この章の要点

失注の直後に、事実を聞いてください。

価格が理由なら、どうするか

やること 内容
範囲を絞った案を出す 機能・部署・期間を限定
効果を金額で示す 回収期間で説明する
競合との比較を総額で揃える 3年の総費用で
値引きする 引き換えを求める
値引きは最後

粗利率60%なら、売価20%の値引きで粗利の33.3%を失います。先に範囲の縮小と効果の提示を試してください。

詳しくは 「予算がない」で止まった商談を、値引き以外で進める の記事で扱っています。

この章の要点

値引きは最後。範囲の縮小と効果の提示が先です。

支払い方が理由なら、どうするか

用意する選択肢 相手にとって
分割払い 1回の支出が下がる
初期費用と月額に分ける 費目を分けられる
年度をまたぐ支払い 今期の枠を超えない
使用量に応じた課金 初期の負担がない
試験導入期間を設ける 小さく始められる
選択肢として最初から提示する

断られてから出すのではなく、見積書の段階で「一括/12回/24回」と並べておくほうが効きます。相手は社内で通しやすい形を自分で選べます。

分割にした場合の自社の入金は 後払いで受注したとき、自社の入金はいつになるか の記事で扱っています。

この章の要点

見積書に最初から支払い方を並べておいてください。

決裁が理由なら、どうするか

やること 内容
稟議に使える資料を作って渡す 担当者の手間を減らす
想定問答を用意する 役員から出る質問への答え
比較表を用意する 相見積もりの代わりになる
決裁者に直接会う機会を作る 伝言では伝わらない
金額を下げて階層を変える 範囲の縮小・分割
導入事例・実績を示す 失敗リスクへの不安を下げる
役員が心配しているのは、価格ではないことが多い

「本当に使われるのか」「失敗したら誰が責任を取るのか」。この不安に答える材料のほうが、価格の説明より効きます。

この章の要点

決裁者の不安は価格ではなく失敗リスクです。

失注してから分かることもある

やること 効果
失注の理由を記録する 傾向が見える
金額帯ごとの受注率を出す どこに壁があるか分かる
止まった階層を記録する 担当か、部長か、役員か
時期を記録する 期末・期初の傾向
半年後に再提案する 予算編成に合わせる
金額帯ごとの受注率を見る

100万円以下は50%決まるのに、300万円を超えると10%しか決まらない——といった傾向が見えれば、そこに構造的な壁があります。

その壁が決裁の階層なら、支払い方で年間の支出額を下げることで越えられる可能性があります。

この章の要点

金額帯ごとの受注率で、壁の位置が分かります。

提案の段階で組み込んでおく

見積書に入れること 効果
支払い方の選択肢を並べる 一括/12回/24回など
年間の支出額を明記する 決裁の基準に合わせやすい
初期費用と月額を分けて書く 費目を分けられる
総額も併記する 誤解を避ける
手数料があれば明示する 後から出すと信用を失う
後から出さない

分割にすると手数料がかかる場合、それを最初に書いてください。「分割なら月8万円」と言った後で「ただし手数料が」となると、そこで止まります。

この章の要点

分割の手数料は最初に明示してください。

分割を用意するときの自社側の準備

確認すること 内容
自社の入金が遅れる その分の運転資金が必要
原価は先に出る 仕入れ・外注は分割にならない
貸倒れのリスク 途中で払われなくなる可能性
収益の認識時期 会計処理の確認が必要
与信管理 相手の支払能力を確認する
契約書の整備 期限の利益喪失条項など
分割で売ると、自社が資金を立て替える

原価は先に出て、入金は24か月に分かれます。受注が増えるほど、立て替える資金も増えます。この構造を理解してから始めてください。

収益をいつ認識するかは、契約の内容と役務の提供時期で決まります。分割払いにしても、収益の認識時期は支払いのタイミングとは限りません。税理士に確認してください。

資金繰りへの影響は 後払いで受注したとき、自社の入金はいつになるか の記事で数字とあわせて扱っています。

この章の要点

分割で売ると、自社が資金を立て替えます。

後払い・分割を外部の仕組みで用意する

形 自社の入金 貸倒れリスク
自社で分割を受ける 分割で入る 自社が負う
外部の仕組みを使う 条件による 条件による
リース会社を使う — —
信販会社を使う — —
比べるのは「自社にいつ、いくら入るか」

外部の仕組みを使う場合、自社への入金時期、手数料、貸倒れリスクを誰が負うかを確認してください。この3点で比べれば、自社で分割を受ける場合と並べられます。

手数料は、売価に転嫁するのか、自社が負担するのかも決めてください。転嫁すれば相手の総額が上がり、自社が負担すれば粗利が減ります。

なお、提供する仕組みによっては、割賦販売法などの法規制が関わることがあります。形を決める前に確認してください。

この章の要点

比べるのは入金時期・手数料・貸倒れリスクの3点です。

複数年契約という選択

分割とは別に、契約期間そのものを複数年にするという形があります。

項目 単年契約 複数年契約
1年あたりの金額 高い 割引で下がることが多い
相手の稟議 毎年必要 1回で済む
決裁の階層 年額で判断 総額で判断されうる
自社の売上の見通し 読みにくい 読める
途中解約 — 条件を決める必要
相手の負担感 — 縛られる感覚
相手にとっての利点は「毎年の稟議が不要になる」こと

金額の割引より、手続きが1回で済むことのほうが響くことがあります。毎年同じ稟議を書くのは、担当者にとって負担です。

ただし、決裁が総額で判断される会社では逆効果です。年額100万円×3年=300万円として役員決裁になり、かえって重くなります。ここでも「年間支出か契約総額か」の確認が効きます。

値引きと引き換えに複数年契約を求める方法は 「予算がない」で止まった商談を、値引き以外で進める の記事で扱っています。

この章の要点

複数年の利点は割引より稟議が1回で済むことです。

提案する時期を選ぶ

時期 状況 提案の向き
予算編成の時期 来期の枠を決めている 最も効く
期初 枠が残っている 効く
期中 枠が埋まりつつある 分割・範囲縮小
期末の2か月前 使い切れない枠が出る 一度声をかける価値
期末直前 手続きが間に合わない 来期の話にする
予算編成の時期を、顧客ごとに記録する

3月決算なら、編成は概ね11月〜1月に行われます。その時期に提案できれば、来期の枠に組み込んでもらえます。編成が終わってから提案すると、1年待つことになります。

期末の2か月前も狙い目です。「使い切らないと来期の枠が減る」という事情で、急に予算が出ることがあります。ただし、その時期に契約しても手続きが間に合わない場合があるため、納品と検収の時期を確認してください。

期末の予算については 期末予算の枠に収める提案の組み立て方 の記事で扱っています。

この章の要点

顧客ごとに予算編成の時期を記録してください。

判断の手順

順 やること
1 失注の理由を「価格・支払い方・決裁」に分ける
2 相手の決裁権限の区切りを聞く
3 年間支出か契約総額か、どちらで判断するか聞く
4 支払い方で階層が下がるか試算する
5 見積書に支払い方の選択肢を並べる
6 稟議に使える資料と想定問答を渡す
7 自社の資金繰りへの影響を確認してから始める
3番で、分割が効くかどうかが決まる

契約総額で判断する会社なら、分割しても決裁の階層は変わりません。この1点を確認しないと、効かない提案をすることになります。

この章の要点

年間支出か契約総額か。ここで効くかが決まります。

チェックリスト

高額商材が決まらないとき

  • 失注の理由を「価格・支払い方・決裁」に分けた
  • 「価格そのものか、支払い方か」を聞いた
  • どの段階で止まったか(担当・部長・役員)を聞いた
  • 決裁権限の金額の区切りを聞いた
  • 年間支出と契約総額のどちらで判断するか聞いた
  • 支払い方を変えた場合の年間支出を試算した
  • それで決裁の階層が下がるか確認した
  • 資産計上になるかを相手の経理に確認してもらった
  • 見積書に支払い方の選択肢を並べた
  • 分割の手数料を最初に明示した
  • 稟議に使える資料を渡した
  • 役員から出る質問への想定問答を用意した
  • 決裁者に直接会う機会を依頼した
  • 分割で売る場合の自社の立て替え額を計算した
  • 収益の認識時期を税理士に確認した
  • 貸倒れリスクを誰が負うか決めた
  • 複数年契約が逆効果にならないか(総額判断か)確認した
  • 顧客ごとに予算編成の時期を記録している
  • 金額帯ごとの受注率を記録している
この章の要点

4番と5番。この2つで、打つべき手が決まります。

よくある質問

Q. 高額商材が失注する理由は価格ですか
とは限りません。「300万円は出せない」と「300万円を一度に出せない」は違います。前者なら値引きが必要ですが、後者なら支払いを分けるだけで解決します。商談では同じ言葉で出てくるため、切り分けてください。
Q. 金額が上がると何が変わりますか
決裁の階層です。承認者が上位になり、稟議の書式が重くなり、関係部署の合議が必要になります。承認の階層が増えるほど、どこかで止まる確率が上がります。
Q. 分割にすると決裁は下がりますか
会社の基準によります。「年間の支出額」で判断する会社なら、300万円を36回に分ければ年間100万円になり、部長決裁の範囲に入ることがあります。ただし「契約総額」で判断する会社なら変わりません。
Q. どちらの基準かは、どう確認しますか
「決裁はいくらから誰の承認ですか」「年間の支出額と契約総額、どちらで見ますか」と直接聞いてください。この2つが分かれば、分割が効くかどうかが判断できます。
Q. 担当者は前向きなのに進みません
稟議の手続きが重くて後回しになっていることがあります。稟議書に貼り付けられる資料、相見積もりの比較表、役員から出る質問への想定問答を用意して、担当者の手間を減らしてください。
Q. 資産計上になると何が変わりますか
設備投資の稟議として扱われ、経理や固定資産管理の部署が関与します。その分、手続きが一段増えます。費用処理か資産計上かは相手の会計方針で決まるため、こちらから断定せず経理部門に確認してもらってください。
Q. 役員は何を心配しているのですか
価格よりも「本当に使われるのか」「失敗したら誰が責任を取るのか」であることが多いです。導入事例や実績を示して、失敗リスクへの不安に答えるほうが効きます。
Q. 支払い方の選択肢は、いつ出すべきですか
見積書の段階です。断られてから出すのではなく、最初から「一括/12回/24回」と並べておけば、相手は社内で通しやすい形を自分で選べます。
Q. 分割の手数料はどう扱えばよいですか
最初に明示してください。「分割なら月8万円」と言った後で「ただし手数料が」となると、そこで止まります。売価に転嫁するか自社が負担するかも、事前に決めておいてください。
Q. 分割で売ると、自社はどうなりますか
原価は先に出て、入金は分割で入ります。つまり自社が資金を立て替えます。受注が増えるほど立て替える額も増えるため、この構造を理解してから始めてください。貸倒れのリスクも自社が負います。
Q. 収益はいつ計上しますか
契約の内容と役務の提供時期で決まります。分割払いにしても、収益の認識時期が支払いのタイミングと一致するとは限りません。税理士に確認してください。
Q. 外部の仕組みで分割を用意する場合、何を比べますか
自社への入金時期、手数料、貸倒れリスクを誰が負うかの3点です。この形で並べれば、自社で分割を受ける場合と比較できます。なお、仕組みによっては割賦販売法などの法規制が関わることがあるため、形を決める前に確認してください。
Q. 複数年契約は有効ですか
相手にとっては毎年の稟議が不要になるのが最大の利点で、金額の割引より響くことがあります。ただし決裁が契約総額で判断される会社では、年額100万円×3年=300万円として役員決裁になり、かえって重くなります。
Q. いつ提案するのがよいですか
予算編成の時期です。3月決算なら概ね11月〜1月に行われます。この時期に提案できれば来期の枠に組み込んでもらえます。編成が終わってからでは1年待つことになるため、顧客ごとに時期を記録してください。

SaaSの年間一括請求が止まる理由は SaaSの年間一括請求が、相手の稟議を止めるとき、導入費用と月額の配分は 導入費用と月額の分け方で、決裁者が変わる の記事で扱っています。

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