
商品を仕入れて売る事業では、現金がいったん在庫という形に変わり、売れて、入金されて、また現金に戻ります。この一周にかかる時間が長いほど、同じ売上でも多くの手元資金が必要になります。
ここが受託開発やSaaSと違うところです。受託開発の立替は人件費として消えますが、仕入れ先行型では倉庫に「現金の塊」が積まれている状態になります。帳簿の上では資産ですが、売れて入金されるまで、支払いには一円も使えません。
仕入れの支払いから売上の入金までの間、事業を回すために手元に必要な資金。「売上債権+在庫 − 仕入債務」でおおよそ把握できる。事業が伸びるほど必要額も増える。
在庫は現金が形を変えて寝ている状態です。売れて入金されるまで支払いに使えないため、在庫が増えるほど手元の現金は減ります。
まず、自社のお金が何日出たままになるかを分解します。押さえるのは3つの日数です。
| 日数 | 意味 | 長いと |
|---|---|---|
| ① 在庫日数 | 仕入れてから売れるまでの日数 | 現金が在庫のまま寝る |
| ② 売上債権日数 | 売れてから入金されるまでの日数 | 売れても現金が来ない |
| ③ 仕入債務日数 | 仕入れてから支払うまでの日数 | 長いほど有利(支払いを待ってもらえる) |
在庫日数 + 売上債権日数 − 仕入債務日数 = 現金が戻るまでの日数
在庫60日・入金45日・支払30日なら、60 + 45 − 30 = 75日。仕入代金を払ってから75日間、その分の現金は手元にありません。
この式の意味は明快です。3つのうちどれか1つでも改善すれば、必要な運転資金はそのぶん減ります。とくに③の仕入債務日数は、交渉次第で動かせることがあります。
日数が分かれば、必要額は掛け算で出ます。
1日あたりの仕入額 × 現金が戻るまでの日数 = 必要な運転資金
月商1,000万円・原価率60%なら、1か月の仕入は600万円、1日あたり20万円。これに75日を掛けて、1,500万円が常に社外に出たままになります。
| 月商 | 原価率60%の仕入/月 | 75日分の必要資金 | 45日に縮めた場合 |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 300万円 | 750万円 | 450万円 |
| 1,000万円 | 600万円 | 1,500万円 | 900万円 |
| 2,000万円 | 1,200万円 | 3,000万円 | 1,800万円 |
表の右2列を見比べてください。日数を30日縮めるだけで、必要な資金が4割減ります。同じ効果を調達で得ようとすれば、金利や手数料を払い続けることになります。まず日数、次に調達、という順序が理にかなっているのはこのためです。
仕入れ先行型で最も危険なのは、売れ行きが好調なときです。売れた分を補充するために仕入れを増やすと、支払いは先に来て、入金は後から来ます。
| 月 | 売上 | 仕入の支払 | 入金 | その月の収支 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 400万 | 240万 | — | −240万 |
| 5月 | 600万 | 360万 | — | −360万 |
| 6月 | 900万 | 540万 | 400万 | −140万 |
| 7月 | 1,350万 | 810万 | 600万 | −210万 |
| 8月 | 2,025万 | 1,215万 | 900万 | −315万 |
粗利率40%で全部売れているのに、成長している間は毎月マイナスです。伸びが速いほど、先に払う仕入が入金を上回り続けます。
これが「黒字なのに資金が尽きる」典型のひとつです。成長を止めれば資金は改善しますが、成長を続けたいなら、その分の運転資金を先に用意しておく必要があります。売れ行きが好調なときこそ、資金繰り表を先に作ってください。
まとまった受注は、先に大きな仕入代金の支払いを伴います。受注額ではなく、仕入代金を払う日と入金の日を並べて、その間の資金が持つかを確認してから受けます。採算が合っていても、払えなければ受けられません。
売れ残った在庫は、現金が戻ってこないまま倉庫に置かれている状態です。資金の面では次の順で悪化します。
| 段階 | 起きること | 資金への影響 |
|---|---|---|
| ① 滞留 | 想定期間を過ぎても売れない | 投じた現金が戻らない |
| ② 保管費の発生 | 倉庫代・管理の手間が続く | 追加で現金が出ていく |
| ③ 値下げ | 売るために価格を下げる | 戻る現金が減る |
| ④ 評価損・処分 | 売れる見込みがなくなる | 投じた現金が戻らないまま確定 |
在庫日数は平均で見ると実態が隠れます。売れ筋と滞留品を分けて日数を出すと、「全体では60日だが、3割の商品は150日動いていない」といったことが見えてきます。この3割こそが、資金を圧迫している部分です。
在庫日数は平均ではなく商品ごとに見ます。滞留品に寝ている現金を特定できれば、値下げや処分の判断も資金の観点で下せます。
まとめ買いは単価が下がる一方、在庫日数を伸ばして現金を寝かせます。単価の差と、その間の資金の負担を並べて比べると、必ずしもまとめ買いが得とは限りません。とくに売れ行きが読みにくい商品は、小口・高頻度のほうが資金は安全です。
動いていない在庫は、値下げしてでも現金に戻したほうが資金は回ります。「損を確定させたくない」という心理で持ち続けると、保管費と機会損失が積み上がるだけです。判断の基準を日数(◯日動かなければ値下げ検討)で決めておくと、感情から切り離せます。
売上債権日数は、締め日と支払サイトで決まります。新規の取引先との条件交渉、前払い・代引きの選択肢、決済手段の見直しで短縮できる余地があります。既存取引先との条件変更は難しくても、新規から標準を変えていくことはできます。
仕入債務日数を伸ばせば、必要な運転資金は直接減ります。次章で詳しく扱います。
支払サイトの延長は、金利も手数料もかからない資金調達と同じ効果があります。ただし相手の資金繰りを圧迫する話でもあるため、交渉の仕方が結果を分けます。
| 交渉の形 | 相手にとって | 通りやすさ |
|---|---|---|
| 取引量の拡大とセットで頼む | 売上が増える | 比較的通りやすい |
| 支払日を月2回から月1回にまとめる | 事務負担が減る | 実質的に日数が伸びる |
| 一部を前払い、残りをサイト払いに | 回収の確実性が上がる | 折衷案として機能する |
| ただ「待ってほしい」と頼む | 資金繰りが悪化する | 信用不安と受け取られやすい |
いちばん避けたいのは、支払期日を過ぎてから事後的に待ってもらう形です。取引条件の交渉と、支払遅延はまったく別のものとして扱われます。前者は交渉、後者は信用の問題になります。条件の見直しは、必ず期日の前に、条件の話として持ちかけてください。
海外から仕入れる場合、国内取引にはない工程が加わり、現金が戻るまでの日数がさらに長くなります。そのうえ、支払いのタイミングが前倒しになることが多いのが特徴です。
| 加わる工程 | 資金への影響 |
|---|---|
| 発注時の前払い(デポジット) | 商品が届く前に現金が出る |
| 製造・輸送の期間 | その間ずっと現金が寝る |
| 通関・関税・消費税 | 輸入の時点でまとまった支払いが発生する |
| 国内輸送・検品 | 販売開始までさらに時間がかかる |
| 為替の変動 | 発注時と支払時で円換算の金額が変わる |
国内仕入れなら「仕入れてから支払うまで30日待てる」ところが、輸入では「支払ってから商品が届くまで60日」という逆転が起きます。前章の式でいえば、仕入債務日数がマイナスに働く形です。
為替が動けば、支払時の円換算の金額が変わります。資金繰り表には、円安に振れた場合も想定した金額を置いておくのが安全側の作り方です。為替予約などの手段については、取引金融機関に確認してください。
輸入仕入れは前払い+長い輸送期間+通関時の支払いで、必要な運転資金が国内取引より大きくなります。初回の輸入前に、支払日を並べた資金繰り表を必ず作ってください。
日数を詰めても足りない部分は、調達で埋めます。仕入れ先行型で使われる手段を並べます。
| 手段 | 効くまで | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 支払条件の交渉 | 次の取引から | 恒常的な改善 | コストなし。まずここから |
| 融資(運転資金) | 3週間〜2か月 | 反復する仕入の資金 | 返済が固定費として乗る |
| 在庫を担保にした調達 | 数週間〜 | 在庫が積み上がっている場合 | 評価・管理の要件がある |
| 仕入れ代金の立替(BNPLなど) | 数日〜 | 仕入のタイミングを動かせない場合 | 手数料の総額を確認する |
| 売掛債権の資金化 | 最短即日〜数日 | 販売済み・請求済みの債権がある場合 | 2社間 8〜18%/3社間 2〜9% (掲載102社の公表値にもとづく目安) |
ここでも順序が大事です。コストのかからない交渉 → 金利の低い融資 → 手数料の高い資金化の順に検討します。反復的に発生する仕入資金を、毎回コストの高い手段で埋めていると、粗利がそのまま調達コストに消えていきます。
売掛金の額と入金してほしい時期を入力すると、掲載102社のうち条件に合う事業者と、手取り額の目安が出ます。5問・約30秒、登録は不要です。
→ 受注前に必要な運転資金を計算する|立替額の求め方
→ 在庫を担保に資金を調達できるか
→ 資金繰り表の作り方|3か月先の現金を見る
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の財務・税務・法的判断についての助言ではありません。在庫の評価や会計処理は個別の事情によって異なります。具体的な資金計画については顧問税理士や金融機関に、取引条件の変更については必要に応じて弁護士にご相談ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。