約束手形は、「いつ・いくら支払う」と約束した証書です。代金を現金振込ではなく手形で払う、というのは、その場では現金を渡さず、決まった期日に支払うと紙で約束することを意味します。
受け取る側から見ると、手形は「まだ現金ではない」のが要点です。期日(満期)が来て、銀行を通して取り立てて、はじめて現金になります。それまでは、金額は確定していても手元の資金にはなりません。
手形は現金そのものではなく、期日に支払うという約束です。受け取っても、満期が来るまで現金化できません。ここが振込との決定的な違いです。
手形の最大の負担は、入金までの期間が振込より長くなることです。振込なら支払サイトのぶんだけ待てば現金が入りますが、手形の場合は、そのうえに手形サイト(手形を受け取ってから満期までの期間)が上乗せされます。
支払サイト + 手形サイト = 実際に現金化できるまで
たとえば支払サイト60日で、受け取った手形の満期が90日先なら、納品から現金化まで実質150日。振込の倍以上かかることも珍しくありません。
つまり、同じ「翌月末払い」でも、それが振込か手形かで、資金繰りへの重さがまったく違います。手形での支払いを提示されたら、実質の入金がいつになるのかを必ず確認してください。
具体例で見ます。5月末に納品し、支払条件が「月末締め・翌月末に手形を振り出し、手形サイトは90日」だとします。
| 段階 | 日付 |
|---|---|
| 納品・締め | 5月31日 |
| 手形を受け取る(翌月末) | 6月30日 |
| 手形の満期(受取から90日) | 9月28日ごろ |
| 現金化 | 納品から約120日 |
納品から現金化まで約4か月です。振込で翌月末払いなら約1〜2か月ですから、手形が入るだけで2か月以上、入金が後ろにずれます。この間の運転資金は、自社で立て替えることになります。
手形が振込と違うのは、期間の長さだけではありません。満期が来ても、相手の口座に資金がなければ支払われない可能性があります。これを不渡りといいます。
手形が不渡りになると、その手形は現金化できず、売掛金の回収そのものが焦げつきます。相手が倒産した場合、手形を持っていても回収は非常に難しくなります。振込予定なら「入金が遅れる」で済むところが、手形だと「そもそも入らない」に変わり得ます。
長期の手形ほど、満期までの間に相手の経営状況が悪化するリスクが積み上がります。受け取る手形の金額が大きい、相手の与信に不安がある、という場合は、手形での受け取り自体を慎重に判断してください。
同じ金額・同じ支払サイトでも、振込か手形かで立て替える期間がまるで変わります。600万円の代金を「月末締め翌月末払い」で受け取る場合を比べます。
| 振込 | 手形(サイト90日) | |
|---|---|---|
| 納品から現金化まで | 約60日 | 約150日 |
| 立て替える期間 | 2か月 | 5か月 |
| 回収できないリスク | 入金遅延 | 不渡り(回収不能もある) |
| 早期現金化のコスト | — | 割引料がかかる |
立て替える期間が2か月から5か月に延びるということは、その分だけ多くの運転資金が必要になるということです。手形で受け取る前に、この差を資金繰り表に織り込んでおかないと、あとで資金が足りなくなります。
資金繰り表に入金を書くときは、振込の感覚ではなく手形が現金化できる実際の日(満期)で書きます。→ 資金繰り表の作り方|入金日ベースで作る
満期を待たずに現金化したい場合、いくつか方法があります。ただし、いずれもコストがかかります。
| 方法 | 内容 | コスト・注意 |
|---|---|---|
| 満期まで待つ | 期日に取り立てる | コストなし。ただし現金化は遅い |
| 手形割引 | 銀行等に手形を買い取ってもらう | 割引料がかかる。不渡り時は買い戻し義務 |
| でんさい割引 | 電子記録債権の場合の割引 | 手形割引に近いが、分割や電子化の利点あり |
もっとも一般的なのが手形割引です。満期前の手形を銀行などに買い取ってもらい、割引料を引いた金額を先に受け取ります。ただし注意が必要なのは、その手形が不渡りになった場合、割引を受けた側(自社)が買い戻す義務を負う点です。現金化はできても、リスクから完全に解放されるわけではありません。
そもそも手形での受け取りを避けられれば、それが一番です。近年は政府も手形の利用廃止を進めており、「振込に変えてほしい」という申し入れは、以前より通りやすくなっています。
手形をなくす流れは社会全体で進んでいるので、「時代に合わせて」という切り口で相談すると、相手も応じやすい状況です。制度の変化については、関連記事で詳しく扱っています。
取引が下請法の対象なら、手形での支払いにも歯止めがあります。手形のサイトが長すぎると、下請法上の問題となる扱いに変わっています。
2024年11月以降、手形等のサイトが60日を超えるものは、下請法に照らして問題があるとされました。つまり、支払サイトと手形サイトを合わせて長期にわたる支払いは、対象取引では認められにくくなっています。手形で受け取っていて、実質の入金が受領日から大幅に遅れている場合は、この観点から見直しを求められる余地があります。
手形は紙の有価証券なので、現金や振込にはない管理の手間があります。
電子記録債権(でんさい)に移行すると、こうした紙の管理は不要になります。手形の管理が負担なら、でんさいへの切り替えを相手と相談する価値があります。
受け取った手形は、現金化するだけでなく、自社が外注先などに支払う代金に、そのまま充てることもできます。これを裏書譲渡といいます。手形の裏面に署名して相手に渡すと、支払いの権利がその相手に移ります。
一見便利ですが、注意すべき点があります。裏書して渡した手形が不渡りになると、渡した自社にも支払いの責任が及びます。つまり、その手形の信用リスクを、現金化するまで自社が背負い続けることになります。
| 使い方 | メリット | リスク |
|---|---|---|
| 裏書して支払いに充てる | 手元資金を使わずに支払える | 不渡り時に自社にも責任が及ぶ |
| 割引して現金化する | 現金が手に入る | 割引料。不渡り時は買い戻し |
| 満期まで持つ | コストなし | 現金化が遅い |
裏書譲渡は資金を使わずに支払える利点がありますが、相手の信用に不安がある手形を、そのまま自社の取引先に回すのは避けたほうが安全です。信用度の高い手形かどうかを見て使い分けます。
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※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、法的・財務的な助言ではありません。手形取引の可否や条件は個別の事情によります。重要な判断は、金融機関や弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。なお2026年1月1日に改正法が施行され、下請法の名称と規制内容が変更されています。約束手形は2026年度末を目標に利用廃止の方向で進められており、最新の状況をご確認ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。