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手形での支払いを求められたときの実務

手形で代金を受け取ると、支払サイトに手形サイトが上乗せされ、現金化が振込より数か月遅れます。しかも不渡りのリスクもある。実質の日数の数え方、現金化の方法、振込やでんさいへ変える交渉、下請法での扱いまでを整理します。

公開:2026年7月21日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 約束手形とは何か
  2. 手形で受け取ると資金化が遅れる
  3. 実際の日数を数える
  4. 手形にはもう1つ、不渡りのリスク
  5. 手形と振込、資金繰りでどれだけ違うか
  6. 受け取った手形を現金化する方法
  7. 手形を断る・振込に変える交渉
  8. 下請法での手形の扱い
  9. 手形を受け取ったあとの管理
  10. 受け取った手形で支払いに充てる(裏書)
  11. よくある誤解とチェックリスト

約束手形とは何か

約束手形は、「いつ・いくら支払う」と約束した証書です。代金を現金振込ではなく手形で払う、というのは、その場では現金を渡さず、決まった期日に支払うと紙で約束することを意味します。

受け取る側から見ると、手形は「まだ現金ではない」のが要点です。期日(満期)が来て、銀行を通して取り立てて、はじめて現金になります。それまでは、金額は確定していても手元の資金にはなりません。

この章の要点

手形は現金そのものではなく、期日に支払うという約束です。受け取っても、満期が来るまで現金化できません。ここが振込との決定的な違いです。

手形で受け取ると資金化が遅れる

手形の最大の負担は、入金までの期間が振込より長くなることです。振込なら支払サイトのぶんだけ待てば現金が入りますが、手形の場合は、そのうえに手形サイト(手形を受け取ってから満期までの期間)が上乗せされます。

現金になるまでの期間

支払サイト + 手形サイト = 実際に現金化できるまで

たとえば支払サイト60日で、受け取った手形の満期が90日先なら、納品から現金化まで実質150日。振込の倍以上かかることも珍しくありません。

つまり、同じ「翌月末払い」でも、それが振込か手形かで、資金繰りへの重さがまったく違います。手形での支払いを提示されたら、実質の入金がいつになるのかを必ず確認してください

実際の日数を数える

具体例で見ます。5月末に納品し、支払条件が「月末締め・翌月末に手形を振り出し、手形サイトは90日」だとします。

段階 日付
納品・締め 5月31日
手形を受け取る(翌月末) 6月30日
手形の満期(受取から90日) 9月28日ごろ
現金化 納品から約120日

納品から現金化まで約4か月です。振込で翌月末払いなら約1〜2か月ですから、手形が入るだけで2か月以上、入金が後ろにずれます。この間の運転資金は、自社で立て替えることになります。

手形にはもう1つ、不渡りのリスク

手形が振込と違うのは、期間の長さだけではありません。満期が来ても、相手の口座に資金がなければ支払われない可能性があります。これを不渡りといいます。

手形が不渡りになると、その手形は現金化できず、売掛金の回収そのものが焦げつきます。相手が倒産した場合、手形を持っていても回収は非常に難しくなります。振込予定なら「入金が遅れる」で済むところが、手形だと「そもそも入らない」に変わり得ます。

手形は相手の信用リスクをそのまま抱える

長期の手形ほど、満期までの間に相手の経営状況が悪化するリスクが積み上がります。受け取る手形の金額が大きい、相手の与信に不安がある、という場合は、手形での受け取り自体を慎重に判断してください

手形と振込、資金繰りでどれだけ違うか

同じ金額・同じ支払サイトでも、振込か手形かで立て替える期間がまるで変わります。600万円の代金を「月末締め翌月末払い」で受け取る場合を比べます。

振込 手形(サイト90日)
納品から現金化まで 約60日 約150日
立て替える期間 2か月 5か月
回収できないリスク 入金遅延 不渡り(回収不能もある)
早期現金化のコスト 割引料がかかる

立て替える期間が2か月から5か月に延びるということは、その分だけ多くの運転資金が必要になるということです。手形で受け取る前に、この差を資金繰り表に織り込んでおかないと、あとで資金が足りなくなります。

手形を受け取るなら、資金繰り表は手形の実サイトで

資金繰り表に入金を書くときは、振込の感覚ではなく手形が現金化できる実際の日(満期)で書きます。→ 資金繰り表の作り方|入金日ベースで作る

受け取った手形を現金化する方法

満期を待たずに現金化したい場合、いくつか方法があります。ただし、いずれもコストがかかります。

方法 内容 コスト・注意
満期まで待つ 期日に取り立てる コストなし。ただし現金化は遅い
手形割引 銀行等に手形を買い取ってもらう 割引料がかかる。不渡り時は買い戻し義務
でんさい割引 電子記録債権の場合の割引 手形割引に近いが、分割や電子化の利点あり

もっとも一般的なのが手形割引です。満期前の手形を銀行などに買い取ってもらい、割引料を引いた金額を先に受け取ります。ただし注意が必要なのは、その手形が不渡りになった場合、割引を受けた側(自社)が買い戻す義務を負う点です。現金化はできても、リスクから完全に解放されるわけではありません。

手形を断る・振込に変える交渉

そもそも手形での受け取りを避けられれば、それが一番です。近年は政府も手形の利用廃止を進めており、「振込に変えてほしい」という申し入れは、以前より通りやすくなっています

手形をなくす流れは社会全体で進んでいるので、「時代に合わせて」という切り口で相談すると、相手も応じやすい状況です。制度の変化については、関連記事で詳しく扱っています。

下請法での手形の扱い

取引が下請法の対象なら、手形での支払いにも歯止めがあります。手形のサイトが長すぎると、下請法上の問題となる扱いに変わっています

2024年11月以降、手形等のサイトが60日を超えるものは、下請法に照らして問題があるとされました。つまり、支払サイトと手形サイトを合わせて長期にわたる支払いは、対象取引では認められにくくなっています。手形で受け取っていて、実質の入金が受領日から大幅に遅れている場合は、この観点から見直しを求められる余地があります

手形を受け取ったあとの管理

手形は紙の有価証券なので、現金や振込にはない管理の手間があります。

電子記録債権(でんさい)に移行すると、こうした紙の管理は不要になります。手形の管理が負担なら、でんさいへの切り替えを相手と相談する価値があります

受け取った手形で、自社の支払いに充てる(裏書譲渡)

受け取った手形は、現金化するだけでなく、自社が外注先などに支払う代金に、そのまま充てることもできます。これを裏書譲渡といいます。手形の裏面に署名して相手に渡すと、支払いの権利がその相手に移ります。

一見便利ですが、注意すべき点があります。裏書して渡した手形が不渡りになると、渡した自社にも支払いの責任が及びます。つまり、その手形の信用リスクを、現金化するまで自社が背負い続けることになります。

使い方 メリット リスク
裏書して支払いに充てる 手元資金を使わずに支払える 不渡り時に自社にも責任が及ぶ
割引して現金化する 現金が手に入る 割引料。不渡り時は買い戻し
満期まで持つ コストなし 現金化が遅い

裏書譲渡は資金を使わずに支払える利点がありますが、相手の信用に不安がある手形を、そのまま自社の取引先に回すのは避けたほうが安全です。信用度の高い手形かどうかを見て使い分けます。

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よくある誤解

手形を受け取れば、代金は確定したも同然
金額は確定していますが、現金化は満期後です。しかも不渡りになれば回収できません。
手形は振込と同じサイトで現金になる
支払サイトに手形サイトが上乗せされます。実質の入金は振込より大幅に遅れます。
手形割引をすればリスクはなくなる
不渡りになった場合、割引を受けた側に買い戻し義務があります。リスクから完全には解放されません。
手形をやめてほしいとは言いにくい
政府が手形の利用廃止を進めており、振込への変更は以前より申し入れやすくなっています。

手形を受け取る前のチェックリスト

提示されたら確認する

  • 手形サイトは何日か(支払サイトと合わせた実質の入金日)
  • 相手の与信に不安はないか(不渡りのリスク)
  • 振込やでんさいへの変更を打診できないか
  • 下請法の対象取引で、実質の入金が60日を超えていないか
  • 受け取る場合、満期日と保管の管理体制はあるか

よくある質問

Q. 手形サイトとは何ですか
手形を受け取ってから満期(支払期日)までの期間です。90日、120日などが一般的です。支払サイトにこの手形サイトが上乗せされ、実際の現金化はさらに遅くなります。
Q. 手形割引の割引料はどのくらいですか
相手の信用度や手形サイトによって変わります。銀行での割引は比較的低く、専門業者は高めになる傾向があります。いずれにせよ、満期まで待てばかからない費用です。
Q. 手形が不渡りになったらどうなりますか
その手形は現金化できず、代金の回収が困難になります。割引を受けていた場合は、買い戻しを求められます。相手が倒産していると、回収はさらに難しくなります。
Q. 手形を断ると取引に影響しませんか
政府の手形廃止方針を背景に、振込やでんさいへの変更は申し入れやすくなっています。全面的な変更が難しければ、手形サイトの短縮から相談する方法もあります。
Q. 受け取った手形はファクタリングで資金化できますか
一般的なファクタリングは売掛債権を対象とし、手形そのものは手形割引で現金化します。電子記録債権(でんさい)の場合は、でんさい割引や対応する事業者での資金化が選択肢になります。
Q. 手形とでんさいはどちらが有利ですか
でんさいは紙の管理が不要で、分割して一部だけ資金化できるなどの利点があります。詳しくは電子記録債権の記事で扱っています。

出典

  1. 公正取引委員会「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」https://www.jftc.go.jp/shitauke/
  2. 中小企業庁「約束手形の利用の廃止等に向けた検討」https://www.chusho.meti.go.jp/
  3. 全国銀行協会「でんさいネット」に関する一般情報

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