支払期日が受領日から60日を超えている。そう気づいたとき、いきなり抗議に入るのは得策ではありません。前提が2つとも成立していないと、話が空振りに終わります。
1つ目は数え方の問題です。支払いサイトは締め日ではなく「受領日」から数えます。月末締め翌月末払いは、月初に納品すれば約60日ですが、月末に納品すれば31日です。同じ契約条件でも、案件ごとに超えているかどうかが変わります。
2つ目は、資本金と委託の種類で決まります。条件を満たしていなければ、60日という上限そのものが適用されません。相手が大企業でも、発注元がグループ内の小さな法人なら対象外になることがあります。
受領日から数えて60日超であること、かつ下請法の対象取引であること。この2つが揃って初めて「違反の可能性がある」と言えます。片方でも欠けていれば、契約条件の交渉として進めることになります。
混同されやすいのですが、この2つは違う話です。取れる手も変わります。
| 期日が長い | 期日を過ぎた | |
|---|---|---|
| 何が起きているか | 契約上の支払期日が、受領日から60日を超えて設定されている | 定めた期日までに支払われていない |
| 問題の所在 | 条件そのもの | 条件は守られていない |
| 直し方 | 契約条件を変更してもらう | まず支払ってもらう |
| 遅延利息 | 期日どおりなら発生しない | 発生する(年14.6%) |
| 急ぎ度 | 次回以降の話にできる | 今すぐの資金繰りに直結する |
両方が同時に起きていることもあります。その場合はまず支払ってもらうことを優先し、条件の見直しは別の議題として立てるのが実務的です。1回の会話に2つの要求を混ぜると、どちらも進みません。
入金額が請求額より少ないときは、支払期日とはまた別の問題です。対象取引では、あらかじめ定めた代金を後から一方的に減らすことは禁止されています。値引きに合意した事実がないのであれば、差額の内訳を確認するところから始めてください。
交渉でも申告でも、必要なのは日付が特定できる記録です。先に揃えておくと、話が早く進みます。
| 資料 | 何を示すか | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約書・取引基本契約書 | 締め日・支払日・起算点の定め | 覚書で条件が変更されていないか |
| 発注書 | 発注日・金額・支払期日 | そもそも交付されていない場合、それ自体が問題 |
| 納品の記録 | 受領日(起算点そのもの) | 納品書の控え、送信メール、システムのログ |
| 検収の記録 | 検収完了日 | 検収基準の契約では、ここが起算点になる |
| 請求書 | 請求日と請求額 | 提出期限に間に合っていたかも確認 |
| 通帳・入金明細 | 実際の入金日と金額 | 減額されていないか、差額の有無 |
とくに重要なのが受領日を示す資料です。60日の起算点そのものなので、ここが曖昧だと「いつから数えて超えているのか」を主張できません。納品時のメールやチャットのタイムスタンプでも構いません。
対象取引では、発注側にも取引記録の作成と2年間の保存が義務づけられています。自社の記録が不完全でも、相手側に残っているはずだという前提で話を進められます。
資料が揃ったら、次の3つを1枚にまとめます。感情ではなく数字で話すための土台です。
複数案件があるなら、案件ごとに表にしてください。「いつもだいたい遅い」ではなく「4月15日受領、支払日6月30日、76日」と特定できる形にすることが目的です。
| 案件 | 受領日 | 支払期日 | 日数 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| A案件 | 4月15日 | 6月30日 | 76日 | 60日超 |
| B案件 | 5月28日 | 7月31日 | 64日 | 60日超 |
| C案件 | 6月25日 | 8月31日 | 67日 | 60日超 |
同じ「月末締め翌々月末払い」でも、受領日によって日数は変わります。案件単位で並べると、条件そのものに問題があることが見えます。
いきなり行政に持ち込む必要はありません。実務では、伝えれば直るケースが相当あります。担当者や経理が制度を把握していないだけ、ということが珍しくないためです。
支払条件は現場の担当者の裁量ではなく、経理部門や購買部門の規程で決まっています。担当者に言っても「そういう決まりなので」で止まります。ただし、担当者を飛ばして経理に直接連絡すると角が立つため、順序としては次のようになります。
ここでの目的は、相手を責めることではなく条件を直してもらうことです。次の3点を守ると、話がこじれにくくなります。
| やること | 避けること |
|---|---|
| 事実(日付と日数)を示す | 「違法です」と断定する |
| 条文の名前だけ触れる | 条文を長々と引用して詰める |
| 具体的な着地点を提案する | 謝罪や補償を先に求める |
「違法だ」と切り出すと、相手は法務を通した防御に入ります。そうなると、直せば済んだ話が長引きます。事実を並べて確認を依頼する形が、結果として早く通ります。
メールで申し入れる場合の骨格です。そのまま使えるように、要素を分けて示します。
5つ目が効きます。相手に逃げ道を用意しておくと、話が止まりにくくなります。支払サイトそのものを変えられなくても、支払回数を分ける形なら社内規程と衝突しにくいためです。
着手金の割合の決め方や見積書への書き方は、着手金・中間金を標準の見積形式にする で扱っています。
担当者経由で社内確認を依頼するのが最初の一手。事実を並べ、断定を避け、代案を添える。この3つで、多くの場合は行政に持ち込む前に解決します。
申し入れると、たいてい次のどれかが返ってきます。それぞれ次の一手が違います。
| 相手の返答 | 意味 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 「弊社の支払規程で決まっているので」 | 担当者に権限がない。規程を変える話になっていない | 規程を所管する部署への確認を依頼する。この案件だけの例外ではなく制度の確認として出す |
| 「他社さんも同じ条件でお願いしています」 | 公平性を理由にした拒否 | 他社と比べる話ではなく、受領日からの日数という基準の話であることを示す |
| 「検収が終わってからの起算なので問題ない」 | 起算点の認識が違う | 上限は受領日から数えるものであることを、日付を並べて確認してもらう |
3つ目は実際によくある誤解です。契約上の締め日を検収基準にすることと、法律上の上限を検収から数えることは別で、後者は認められていません。ここは事実として伝えれば通ることが多い部分です。
検収そのものが遅れて入金が延びる問題は、検収が終わらないと請求できない|契約前に入れるべき検収期限条項で扱っています。
小さな会社ほど、この作業が後回しになります。役割を先に決めておくと動きます。
経営者が全部やろうとすると止まります。集計だけでも先に走らせておくと、話が具体的になります。
伝えても是正されない場合、公的な窓口があります。相談先は複数あり、目的によって使い分けます。
| 窓口 | できること | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 下請かけこみ寺 | 無料の相談、弁護士への無料相談、当事者間の調整(ADR) | まず誰かに相談したい。対象外の取引でも相談できる |
| 公正取引委員会 | 申告の受付、調査、指導・勧告 | 是正させたい。匿名での情報提供も可能 |
| 中小企業庁 | 申告の受付、調査 | 公取委と同様。取引適正化の窓口を持つ |
| 弁護士 | 代理交渉、内容証明、訴訟 | 金額が大きい、複数案件にわたる、関係悪化を織り込む場合 |
順番としては、下請かけこみ寺から入るのが負担が軽いです。無料で、対象外の取引についても相談を受け付けており、いきなり相手を調査対象にする話にはなりません。
公正取引委員会や中小企業庁に申告した場合、おおむね次の流れになります。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 申告 | 書面・電話・ウェブで受け付けられる。匿名でも情報提供できる |
| 2. 調査 | 取引の実態を確認する。書面調査が行われることもある |
| 3. 指導 | 違反のおそれがある場合、是正を求められる |
| 4. 勧告 | 違反が認められた場合。企業名・違反内容が公表される |
多くは指導の段階で処理されます。勧告に至ると社名が公表されるため、発注側にとっては避けたい事態です。この非対称性が、交渉での実質的な後ろ盾になります。
なお、申告してもすぐに支払われるわけではありません。調査には時間がかかるため、目の前の資金繰りは別に手当てする必要があります。
ここが最大の懸念だと思います。結論から言えば、申告したことを理由に取引を減らす・停止するといった報復措置は、法律で明確に禁止されています。
それでも不安が残る場合、次のような進め方があります。
報復が禁止されていることと、その取引先と今後も付き合うべきかは別の話です。60日を超える条件を提示し、指摘しても直さない相手は、資金繰りの観点では継続的なリスクです。取引の集中度と合わせて考える必要があります。
支払期日を過ぎて支払われた場合、対象取引では年14.6%の遅延利息が定められています。起算点は、受領日から60日を経過した日です。
代金 × 14.6% × 遅延日数 ÷ 365
代金500万円で、受領日から60日を経過した日からさらに30日遅れた場合:
500万円 × 0.146 × 30 ÷ 365 = 60,000円
金額としては大きくありませんが、請求できる権利があるという事実そのものが交渉材料になります。実務では、遅延利息を請求するより「今後の支払期日を守ってもらう」ことを優先するほうが現実的です。
条件が直った場合、それがいつから適用されるのかは自動的には決まりません。確認しておかないと、直ったつもりで次も同じサイトになります。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 適用開始はいつからか | 「次回契約から」か「今出ている発注分から」かで、資金繰りへの効き方がまったく違う |
| すでに納品済みの案件は対象か | 受領済みで未払いのものが最も影響が大きい |
| 契約書を更新するか | 口頭の合意だけだと、担当者が変わった時点で元に戻る |
| 発注書の記載も変わるか | 契約書と発注書で条件が食い違うと、後で揉める |
実務では覚書を1枚交わしておくのが確実です。契約書の全面改定より軽く、記録として残ります。
| 段階 | 期間の目安 |
|---|---|
| 資料を揃えて日数を集計する | 数時間〜1日 |
| 担当者に確認を依頼し、回答を待つ | 1〜2週間 |
| 書面で正式に申し入れる | さらに2〜4週間 |
| 行政の窓口に相談する | 相談は即日。調査が入る場合は数か月 |
条件の是正が資金繰りに効いてくるまで、早くても1〜2か月かかります。目の前の不足はこれとは別に手当てが要る、という前提で動いてください。
条件が直らなかった場合、その取引を続けるかを決める必要があります。判断材料は3つです。
| 見るもの | 考え方 |
|---|---|
| 立替に必要な金額 | 月商 × 原価率 × (サイト日数 ÷ 30)。これを常時用意できるか |
| 売上の集中度 | この1社が売上の何割か。5割を超えるなら、条件を飲まざるを得ない状況そのものが問題 |
| 他社との条件差 | 他の取引先が30〜60日なら、この1社だけが資金を圧迫している |
すぐに切れない場合でも、新規の取引先を並行して開拓し、集中度を下げること自体が資金繰りの対策になります。
交渉にも調査にも時間がかかります。その間、立て替えている資金は自社で持つことになります。
時間に余裕があれば融資が最も安く、受注が決まった時点で動けば間に合うことがあります。すでに請求済みで数日以内に必要なら、売掛債権の資金化という選択肢もありますが、コストは融資の数倍から十数倍です。今回の穴を塞ぐ手段であって、資金繰りの改善策ではありません。
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※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、法的な助言ではありません。適用の可否や具体的な対応は、公正取引委員会・中小企業庁の窓口、または弁護士にご確認ください。なお2026年1月1日に改正法が施行され、法律の名称と規制内容が変更されています。実際の対応にあたっては現行条文をご確認ください。
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