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着手金・中間金を標準の見積形式にする

入金を早める方法のうち、相手にお願いして最も通りやすいのが着手金です。支払サイトの短縮と違い、相手の支払総額を1円も変えずに立替を半分にできます。割合の決め方、見積書への書き方、断られたときの代替案までを、金額の試算つきで示します。

公開:2026年7月21日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. なぜ着手金がいちばん通るのか
  2. 支払サイト交渉との違い
  3. 着手金・中間金・完了金の3分割
  4. 何割を先に受け取るか
  5. 立替額はどれだけ減るか
  6. 着手金があると資金の谷が浅くなる
  7. 見積書・契約書への書き方
  8. 切り出し方|新規と既存で変える
  9. 断られたときの代替案
  10. 受け取ったあとの会計と税務
  11. よくある誤解とチェックリスト

なぜ着手金がいちばん通るのか

資金繰りを楽にする方法として、支払サイトの短縮、融資、売掛債権の資金化などがあります。そのなかで、相手にお願いして通りやすいのは着手金の設定です。理由は1つ、相手が支払う総額が変わらないからです。

支払サイトを短くしてほしいという依頼は、相手にとって自社の手元資金が減る話です。だから経理部門が抵抗します。一方、着手金は支払うタイミングを分けるだけで、年間に払う金額は1円も変わりません。相手の資金繰りをほとんど傷つけないので、話が前に進みます。

この章の要点

着手金が通りやすいのは、相手の支払総額を変えないからです。値引きでもサイト短縮でもなく、支払回数を分ける相談として持ち出せる。これが他の手段との決定的な違いです。

支払サイト交渉との違い

どちらも入金を早める手ですが、相手が受ける印象がまったく違います。

支払サイトの短縮 着手金の設定
相手が感じること 手元資金が減る 支払う回数が増えるだけ
年間の支払総額 変わらない 変わらない
決裁の重さ 経理・購買の規程変更が要る 発注条件の範囲で収まることが多い
通りやすさ 低い 高い
今の案件に効くか 効かない(次回から) 効く(この案件から)

とくに最後の行が実務では大きい。支払サイトの交渉は早くても次回契約からですが、着手金は今動いている案件から効きます。目の前の資金繰りに直結するのは着手金のほうです。

着手金・中間金・完了金の3分割

代金を1回で受け取るのではなく、工程の節目で分けて受け取る形です。基本は3分割です。

名称 受け取るタイミング 意味
着手金 契約時・作業開始時 先行して出る費用(人件費・外注費)に充てる
中間金 工程の中間・マイルストーン到達時 長期案件で、期間中の資金を平準化する
完了金(残金) 納品・検収後 従来どおりの支払サイトで受け取る

短期の案件なら着手金と完了金の2分割、数か月にわたる案件なら中間金を挟んだ3分割が目安です。期間が長い案件ほど、分割の効果が大きくなります。立て替える期間が長いからです。

マイルストーンに紐づけると通りやすい

中間金は「◯月末」ではなく「要件定義の完了時」「β版の納品時」のように成果物の節目に紐づけると、相手も支払いの根拠を説明しやすくなります。単なる分割払いより、対価の支払いとして自然に見えます。

何割を先に受け取るか

着手金の割合に決まりはありませんが、業界や案件の性質で相場観があります。

案件の性質 着手金の目安 考え方
先行費用が大きい(外注・仕入れが先行) 30〜50% 持ち出しが大きいほど、先に受け取る割合を上げる
一般的な受託・制作 20〜30% もっとも提案しやすい水準
継続的な保守・運用 月額前払い 月初にその月分を受け取る形
長期の開発(数か月) 着手30% + 中間30% 完了金を残しつつ、期間中を平準化

迷ったらまず30%で提案するのが無難です。高すぎると警戒され、低すぎると資金繰りの効果が薄い。30%前後は、相手も受け入れやすく、自社の立替も目に見えて減る水準です。

立替額はどれだけ減るか

着手金の効果を金額で見ます。受注額600万円・原価率60%・支払サイト60日の案件で計算します。原価は着手から納品まで均等に出ていくと仮定します。

着手金の割合と、立替の最大額
着手金 着手時の入金 立替の最大額 相手の年間支払総額
なし 0円 360万円 600万円
20% 120万円 240万円 600万円(変わらない)
30% 180万円 180万円 600万円(変わらない)
50% 300万円 60万円 600万円(変わらない)

着手金30%で、立替の最大額が360万円から180万円へ半分になります。それでいて相手の年間支払総額は1円も変わりません。この一点を交渉で示すと、話の性質が変わります。

360万着手金なしの立替
180万着手金30%の立替
±0円相手の負担の変化

立て替える金額が減るということは、その分の運転資金を用意しなくてよくなるということです。融資や資金化でこの180万円を工面すればコストがかかりますが、着手金なら無料です。

着手金があると、資金の谷が浅くなる

着手金の効果は「立替の最大額が減る」だけではありません。資金が最も苦しくなる谷が浅くなるのが本質です。同じ600万円の案件を、着手金なしとありで並べます。

月ごとの現金の過不足(原価率60%・3か月・サイト60日)
時点 着手金なし 着手金30%あり
着手時 0円 +180万円
1か月目(原価120万) −120万円 +60万円
2か月目(原価120万) −240万円 −60万円
3か月目・納品(原価120万) −360万円 −180万円
入金後 +240万円 +240万円

最終的に残る利益(+240万円)は同じです。違うのは途中の谷の深さ。着手金なしでは360万円の谷に落ちますが、着手金30%なら180万円で済みます。この谷を自己資金でしのげるかどうかが、案件を受けられるかの分かれ目です。

受注できるのに資金が足りなくて受けられない、という事態を防ぐのが着手金です。売上を増やすのではなく、売上を回すための資金を減らす手段だと考えると、位置づけがはっきりします。

見積書・契約書への書き方

着手金を定着させる鍵は、案件ごとに交渉するのではなく見積書の標準形にしてしまうことです。都度お願いすると例外扱いになり、次の案件では元に戻ります。最初から見積書に欄があれば、それが当たり前の条件になります。

見積書への記載例

■ お支払い条件
・着手金:ご発注時に総額の30%(◯◯円)
・残金:納品・検収後、貴社お支払い条件に準じて(◯◯円)
※ 着手金のご入金確認後に作業を開始いたします。

最後の一文が効きます。「着手金の入金確認後に着手」と書いておくと、着手金が支払いの前提として自然に位置づきます。値引き交渉のような後ろ向きの話ではなく、業務の進め方として提示できます。

契約書への条項例

第◯条(委託料の支払い)
1. 甲は乙に対し、本件業務の委託料として金◯◯円を支払う。
2. 前項の委託料は、次のとおり分割して支払うものとする。
 (1)着手金:本契約締結後◯日以内に、金◯◯円
 (2)残金:検収完了後、甲の支払条件に従い、金◯◯円

下請法の対象取引では書面交付とセットで

対象取引では、代金と支払期日を記載した書面の交付が発注側の義務です。着手金を設定する場合も、各回の金額と支払時期を発注書に明記してもらうことで、あとで揉めにくくなります。詳しくは関連記事で扱っています。

切り出し方|新規と既存で変える

提案のしやすさは、相手が新規か既存かで変わります。

新規取引先の場合

もっとも簡単です。最初の見積書に着手金の欄を入れておくだけ。相手には「そういう条件の会社」として認識されます。過去の条件との比較がないので、抵抗もほとんどありません。取引条件をこちらから設計できる、貴重なタイミングです。

既存取引先の場合

すでに完了後一括で回している相手には、切り出し方に工夫が要ります。次のような理由づけが使えます。

いずれも、相手を責める話ではなく自社の事情として説明するのがコツです。「御社の支払いが遅い」ではなく「弊社の資金繰りの都合で」という立て付けにすると、関係を保ったまま提案できます。

この章の要点

新規なら見積書に欄を入れるだけ。既存なら案件規模・期間・社内方針を理由に、自社の事情として切り出す。相手の支払いを責める形にしないことが、関係を壊さないコツです。

相手にもメリットがある形にする

着手金は自社の都合ですが、相手にとっての利点も添えると通りやすくなります。実際に成立する論理がいくつかあります。

2つ目は特に効きます。着手金は自社の資金繰りのためであると同時に、相手にとっては着手が早まるという利点にもなる。この両面を示せると、一方的なお願いではなくなります。

断られたときの代替案

着手金が難しいと言われても、そこで終わりではありません。段階を下げた代替案があります。

提案 内容 相手の抵抗
着手金30% 発注時に3割を先に
着手金の割合を下げる 10〜20%だけでも先に
中間金だけ 着手時は0、工程の途中で一部
実費の先払い 外注費・材料費など実費分だけ先に 小(根拠が明確)
支払サイトの短縮 着手金が無理なら、せめてサイトを

とくに実費の先払いは通りやすい代替案です。「この案件のために外注に◯◯円を先に払う必要があり、その分だけ先にいただけないか」という形なら、相手も根拠を理解しやすく、金額も限定的だからです。

「着手金は無理」と言われても、いきなりサイト短縮に飛ばず、割合を下げる・実費だけ・中間金だけと刻んでいくと、どこかで着地できることが多くあります。

受け取ったあとの会計と税務

着手金を受け取ると、経理上の扱いが完了後一括とは変わります。基本を押さえておきます。

項目 扱い
受け取った時点 役務の提供がまだなら、前受金として負債に計上する
売上に計上する時期 原則として、役務の提供が完了したとき(引き渡し・検収時)
消費税 売上を計上する時期に合わせて処理する(前受金の受領時ではない)
返金の可能性 着手後に中止となった場合の精算方法を、契約で定めておく

着手金は「もらった時点では売上ではない」のが原則です。前受金として預かり、仕事が完了したときに売上へ振り替えます。この処理を誤ると、決算の売上が実態とずれます。

中止時の精算を契約に入れておく

着手後に案件が中止になった場合、着手金をどう扱うかは揉めやすい点です。「着手済みの作業分は精算し、残額を返金する」など、中止時の取り扱いを契約に一文入れておくと安全です。会計処理の詳細は、顧問税理士にご確認ください。

それでも立替が残る場合

着手金で立替は減りますが、ゼロにはなりません。残った分の運転資金は、別に手当てが要ることがあります。

時間に余裕があれば融資が最も安く、受注が決まった時点で動けば間に合うことがあります。すでに請求済みで数日以内に必要なら、売掛債権の資金化という選択肢もありますが、コストは融資の数倍から十数倍です。着手金で立替そのものを小さくしておけば、こうした調達の必要額も、かかるコストも減らせます。

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よくある誤解

着手金をお願いすると、値引きを求められる
着手金は支払回数を分けるだけで、総額は変わりません。値引きとは別の話として提示できます。
着手金は信用がないと思われる
見積書の標準条件として最初から入れておけば、業務の進め方として自然に受け止められます。
受け取った着手金はすぐ売上になる
役務の提供が完了するまでは前受金です。売上への計上は、原則として仕事の完了時です。
既存の取引先には今さら言えない
案件の規模や期間、社内方針を理由に、自社の事情として切り出せます。相手の支払いを責めない形にするのがコツです。
着手金が無理なら打つ手はない
割合を下げる、中間金だけ、実費の先払いなど、段階を刻んだ代替案があります。

チェックリスト

提案する前に

受け取ったあと

  • 前受金として計上した(受領時点で売上にしていない)
  • 売上への振替は仕事の完了時に行う
  • 対象取引なら、各回の金額と時期が発注書に記載されているか確認した

よくある質問

Q. 着手金の相場は何割ですか
案件によりますが、一般的な受託・制作で20〜30%が提案しやすい水準です。外注や仕入れの先行が大きい案件では30〜50%まで上げることもあります。迷ったら30%から提案するのが無難です。
Q. 着手金と手付金は違いますか
呼び方の違いで、実務上は近い意味で使われます。契約書では「着手金」「委託料の一部」などと明記し、金額と支払時期を定めておけば問題ありません。
Q. 着手金をもらうと、仕事が終わる前に売上になりますか
なりません。役務の提供が完了するまでは前受金(負債)として扱い、仕事が完了した時点で売上に振り替えるのが原則です。
Q. 着手後に案件が中止になったら、着手金は返すのですか
契約の定めによります。すでに行った作業分を精算し、残額を返金するといった取り決めを、契約に入れておくのが安全です。
Q. 継続的な保守契約でも着手金は使えますか
その場合は着手金というより、月額の前払い(月初にその月分を受け取る)が現実的です。立替期間を短くする効果は同じです。
Q. 大企業が相手でも着手金は通りますか
相手の支払総額が変わらないため、通ることはあります。ただし大企業ほど支払プロセスが定型化しているため、見積書の標準条件として最初から提示しておくほうが通りやすくなります。
Q. 着手金をもらっても資金が足りません
残った立替分は、融資や売掛債権の資金化で手当てします。着手金で立替そのものを小さくしておけば、必要な調達額もコストも減らせます。
Q. 下請法の対象取引で、着手金の設定に問題はありませんか
分割払い自体は問題ありません。各回の金額と支払時期を発注書に明記してもらうこと、および支払期日が受領日から60日以内であることを満たせば、通常の運用の範囲です。

出典

  1. 公正取引委員会「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」https://www.jftc.go.jp/shitauke/
  2. 中小企業庁「下請取引の適正化」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/
  3. 国税庁「収益の計上時期」(役務提供の完了基準に関する一般的な取扱い)

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