
出品者と購入者、依頼者と受注者のように、二者の間に立って代金をいったん預かる形のサービスでは、会社の口座に多額の現金が滞留します。しかしその大部分は、後日、相手方に支払わなければならないお金です。
ここを区別せずに「残高がある=資金に余裕がある」と考えると、事業としては非常に危うい状態になります。預かっているお金と、自社が稼いだお金は、まったく性質が違います。
他者に帰属する金銭を、一時的に自社が保管している状態。会計上は負債として扱われ、資産(現金)と対になって計上される。自社の収益ではないため、自由に使える資金ではない。
プラットフォーム型では、口座残高=自社の資金ではありません。預り金と自社資金を分けて把握することが、資金管理の最初の一歩です。
流通総額(プラットフォーム上で成立した取引の合計)が大きくても、自社の収益になるのは手数料の部分だけです。数字にすると、その差の大きさが分かります。
| 項目 | 金額 | 性質 |
|---|---|---|
| 流通総額 | 1億円 | 取引の規模を示す指標 |
| 出品者へ支払う分 | 9,000万円 | 預り金(負債) |
| 自社の手数料収益 | 1,000万円 | 自社の売上 |
口座に1億円あっても、9,000万円は後日出ていくお金です。自社の資金は残る1,000万円と、そこから費用を引いた部分だけです。
流通総額が伸びるほど、口座の残高は増えますが、同時に負債も増えます。残高の増加を成長の証と見るのは自然ですが、資金管理の観点では、増えているのは主に「返すべきお金」です。
預り金は、支払期日が来るまでは口座にあります。この現金を、自社の広告費や人件費に使ってしまうと——短期的には回りますが、構造としては自転車操業です。
| 段階 | 状態 | 危険度 |
|---|---|---|
| ① 預り金に手をつけない | 自社資金だけで運転している | 健全 |
| ② 一時的に流用している | 次の取引の入金で支払いを埋めている | 取引が減ると即座に行き詰まる |
| ③ 恒常的に不足している | 新規の預り金がないと支払えない | 極めて危険 |
②③の状態では、取引量が減った瞬間に、出品者への支払いができなくなります。しかも問題が表面化するのは、支払期日という「待ってくれない期限」です。売上不振なら経費を削る時間がありますが、預り金の支払いには猶予がありません。
預り金を運転資金に充てている状態は、取引が増え続けている間は表面化しません。新しい預り金が、前の支払いを埋め続けるからです。止まったときに一気に表に出ます。だからこそ、好調なうちに分けておく必要があります。
管理の第一歩は、口座の残高を性質ごとに仕分けることです。最低限、次の4つに分けます。
| 箱 | 中身 | 使ってよいか |
|---|---|---|
| ① 支払待ちの預り金 | 取引成立済み、出品者への支払い前 | 使えない |
| ② 返金の可能性がある預り金 | キャンセル・トラブル対応中の取引分 | 使えない |
| ③ 確定した自社の手数料 | 取引が完了し、収益として確定した分 | 使える |
| ④ 自社の資金 | 資本金・調達した資金・過去の利益 | 使える |
この仕分けができれば、「今月、自由に使える資金はいくらか」が明確になります。資金繰り表は④+③だけで組み、①②は別に残高推移を管理する——これが基本形です。
残高を預り金(①②)と自社資金(③④)に分け、資金繰り表は自社資金だけで組みます。預り金の残高推移は別表で追います。
帳簿上で分けるだけでなく、物理的に分けるほど安全です。実務としては次の順で強くなります。
口座は1つのまま、日次または週次で「預り金残高」を計算し、口座残高と突き合わせる方法です。口座残高が預り金残高を下回っていれば、その時点で預り金に手をつけていることになります。まずここから始めます。
預り金専用の口座を作り、入金があったらその口座に置き、支払いもそこから行う形です。自社の経費用の口座と混ざらないため、誤って使ってしまう事故を防げます。
事業の形態や規模、適用される法規制によっては、預かった資金を保全する仕組みが必要になる、あるいは求められることがあります。どの仕組みが必要かは、後述のとおり法規制の枠組みと合わせて確認してください。
預り金残高と口座残高の突き合わせは、頻度が高いほど早く異常に気づけます。月次だと、気づいたときには1か月分ずれています。取引量が多い事業ほど、日次での確認を仕組みにしておくと安全です。
出品者・受注者への支払いをいつ行うかは、プラットフォーム側が設計できる部分です。ここが自社の資金繰りにも、相手方の資金繰りにも影響します。
| 支払サイクル | 自社にとって | 相手方にとって |
|---|---|---|
| 取引完了ごとに即時 | 預り金が滞留せず、管理は明快 | いちばん助かる |
| 月2回の締め | 事務負担が軽い | 最大で半月ほど待つ |
| 月1回の締め+翌月払い | 預り金が長く滞留する | 最長で2か月近く待つ |
| 早期振込オプション(手数料あり) | 手数料収益になる | 選べる余地ができる |
注意したいのは、支払いを遅くすれば口座残高は厚くなりますが、それは自社の資金が増えたわけではないという点です。滞留期間が長いほど、預り金と自社資金の混同も起きやすくなります。滞留を「実質的な資金繰りの余裕」と考えるのは危険です。
また、相手方が個人事業主や小規模事業者である場合、支払いの遅さがそのまま相手方の資金繰りを圧迫します。プラットフォームの信頼性という観点でも、支払サイクルは短いほうが有利に働きます。
取引が途中で止まったとき、預かっているお金を誰に、いつ返すのか。ここが決まっていないと、資金管理は成立しません。トラブル対応中の資金は、自社の資金でも相手の資金でもない、宙に浮いた状態になります。
| 場面 | 資金の行き先 | あらかじめ決めておくこと |
|---|---|---|
| 取引成立前のキャンセル | 購入者へ返金 | 決済手数料の負担は誰か |
| 納品後のトラブル | 判断がつくまで保留 | 保留する期間と判断の基準 |
| 当事者間の見解の相違 | 合意または規約に従う | 規約でどこまで定めるか |
| 相手方の口座に送金できない | 預り金として残る | 一定期間後の取り扱い |
資金繰りの観点でとくに注意したいのが、最後の「送金できないまま残る預り金」です。口座情報の不備や、相手方の連絡が取れなくなることで発生します。放置すると、性質の分からない現金が口座に積み上がっていくことになるため、規約での取り扱いと、社内での管理方法を決めておいてください。
取引がキャンセルされたとき、すでに自社の収益として計上した手数料はどうなるのか。収益を確定させるタイミング(取引成立時か、完了時か、返金期間の経過後か)を決めておかないと、後から取り消しが続いて数字が安定しません。会計上の判断は税理士に確認してください。
キャンセル・トラブル時の資金の行き先と保留期間を、規約と運用の両方で決めておきます。送金できないまま滞留する預り金の扱いも、あらかじめ定めておく必要があります。
他者のために資金を預かって移動させる行為は、資金決済に関する法規制の対象となる場合があります。代表的な論点は次のとおりです。
銀行以外の事業者が為替取引(資金の移動)を業として行う場合に、登録を要する制度。資金決済法に基づき、登録の要否や利用者資金の保全義務などが定められている。該当するかどうかは、取引の実態によって判断される。
債権者に代わって代金を受け取る形態。従来から広く行われてきたが、実態によっては資金移動業に該当し得るという議論があり、制度上の整理も進められてきた。自社の形態がどちらに当たるかは、個別の判断が必要になる。
どの枠組みに当たるかは、お金の流れ・契約関係・誰が誰に対して債務を負うかといった実態で判断されます。この記事で「あなたの事業はこれに当たる」と示すことはできません。プラットフォーム型の事業を設計する段階で、金融分野に詳しい弁護士や、金融庁の窓口に確認してください。設計を変えるのは、始める前のほうが圧倒的に容易です。
資金を預かる形態は法規制の対象になり得ます。該当性は実態で決まるため、事業設計の段階で弁護士・監督官庁に確認するのが確実です。
資金を調達する場面でも、預り金と自社資金の区別が効いてきます。
| 手段 | 見られるポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| 株式による調達 | 流通総額の成長と、テイクレートの水準 | 預り金を自社の売上として説明しない |
| 融資 | 自社の収益(手数料)と返済能力 | 預り金を含む口座残高で判断されるわけではない |
| 売掛債権の資金化 | 自社が請求権を持つ債権があるか | 預り金は自社の債権ではない |
とくに売上の表示には注意が必要です。流通総額を売上として説明すると、実態と異なる規模感を与えます。会計上も、取引の実態によって総額表示と純額表示のどちらが適切かが変わります。この判断は専門的なので、顧問税理士や監査法人に確認してください。
売掛金の額と入金してほしい時期を入力すると、掲載102社のうち条件に合う事業者と、手取り額の目安が出ます。5問・約30秒、登録は不要です。
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※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の法的判断・会計処理についての助言ではありません。資金を預かる事業が資金移動業などの規制に該当するかどうかは、取引の実態によって判断されます。事業設計の段階で、金融分野に詳しい弁護士や金融庁の窓口、会計処理については顧問税理士にご相談ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。