資本政策表(キャップテーブル)は、誰が、どの種類の株式を、何株持っているかを一覧にした表です。会社が作らなければならない書類ではありません。作る義務があるのは株主名簿のほうで、こちらは会社法で記載事項まで決まっています。
この2つを同じものだと思っていると、調達の場面で困ります。株主名簿にはこれから株式になるもの、つまりストックオプションや転換予定の投資が載りません。投資家が見たいのはそこを含めた姿なので、株主名簿をそのまま出しても話が進みません。
株主名簿は法定帳簿で、現在の株主しか載りません。資本政策表は法定書類ではありませんが、潜在株式を含めた実態を示す唯一の資料です。両方いります。
凝った作りにする必要はありません。最初は次の9列があれば足ります。列が足りないまま運用すると、あとから過去の取引を再現できなくなります。
| 列 | 何を書くか | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| 株主名 | 個人名または法人名 | — |
| 株式の種類 | 普通株式/A種優先株式など | 優先株の条件が追えなくなる |
| 株数 | 保有株式数 | — |
| 取得時期 | 払込日または取得日 | どのラウンドの株かが分からなくなる |
| 1株あたりの払込金額 | その回の発行価額 | ラウンド間の単価が比較できない |
| 払込総額 | 株数 × 単価 | 調達累計が合わなくなる |
| 持株比率 | 発行済株式総数に対する割合 | — |
| 潜在株式 | 新株予約権の個数と対象株数 | 実際の比率より高く見える |
| 完全希薄化後比率 | 潜在株式を含めた割合 | 投資家との会話が噛み合わない |
特に落ちやすいのが「1株あたりの払込金額」です。払込総額だけ記録していると、株式分割をはさんだ瞬間に過去のラウンドと単価を比べられなくなります。
9列のうち、あとから復元できないのは取得時期・1株あたりの払込金額・潜在株式の3つです。ここだけは最初から埋めてください。
数字を入れたほうが早いので、単純な例で作ります。創業時に普通株式10,000株を1株100円で発行し、その後にストックオプション用の新株予約権を出し、シードラウンドでA種優先株式を発行した会社です。
| 株主 | 種類 | 株数 | 単価 | 払込額 | 比率 | 希薄化後 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 代表 | 普通株式 | 7,000 | 100円 | 70万円 | 54.7% | 50.0% |
| 共同創業者 | 普通株式 | 2,500 | 100円 | 25万円 | 19.5% | 17.9% |
| 初期メンバー | 普通株式 | 500 | 100円 | 5万円 | 3.9% | 3.6% |
| 投資家A | A種優先株式 | 2,800 | 25,000円 | 7,000万円 | 21.9% | 20.0% |
| SO枠(未行使) | 新株予約権 | 1,200 | — | — | — | 8.6% |
ポストマネー評価額は1株25,000円 × 発行済12,800株 = 3億2,000万円。ここから今回の調達額7,000万円を引いた2億5,000万円がプレマネーです。この2つの取り違えは金額が数千万円単位でずれる原因になるので、別の記事で詳しく扱います。
小数第1位で丸めると、合計が100.1%や99.9%になります。これは計算間違いではなく端数処理の結果です。投資家に出す資料では、丸める前の株数を必ず併記してください。比率だけを見せると「合わない」と指摘され、余計な確認が発生します。
比率は株数から計算した結果であって、先に決める数字ではありません。表の主役は株数と単価で、比率はその表示にすぎません。
上の表で、代表の持株比率は2通り出てきます。発行済ベースなら54.7%、完全希薄化後なら50.0%です。同じ日の同じ会社で、4.7ポイント違います。
この差はストックオプション枠1,200株から来ています。まだ誰も行使していないので株主名簿には載りませんが、行使されれば株式になります。投資家は行使される前提で見るので、会話の基準は完全希薄化後です。
資本政策表を発行済ベースだけで作っていると、こうなります。自社は「代表54.7%」のつもりで交渉し、相手は「50.0%」を前提に話している。次のラウンドで枠を追加する段になって初めてずれに気づき、想定より持分が減ります。
比率は必ず発行済ベースと完全希薄化後の2列を並べます。どちらか1つだけだと、必ずどこかで会話が噛み合わなくなります。
資本政策の難しさは、表の作り方ではなく取り消せない点にあります。一度発行した株式は、会社が勝手に取り戻せません。買い戻すには相手の同意と、買い取るための現金がいります。
共同創業者が抜けたときに株式を戻す取り決めは、創業時に書面で結んでいなければ機能しません。口頭の合意は、関係が良好なうちしか効きません。この論点は共同創業者が抜けたときの記事で扱います。
表は何度でも直せますが、発行した株式は直せません。資本政策表を作る目的は、直せない判断をする前に全体を見ることです。
表そのものより、表の読み方でつまずくほうが多くあります。実務で繰り返し起きるのは次の3つです。
「7,000万円しか入れていないのに20%も持っていかれるのか」という受け止め方をすると、交渉の軸を間違えます。持分は金額ではなく1株あたりの単価と株数で決まります。同じ7,000万円でも、1株25,000円なら2,800株、1株35,000円なら2,000株です。
つまり交渉すべきは「いくら入れてもらうか」ではなく「1株いくらで発行するか」です。調達額を減らして持分を守ろうとすると、手元資金が減るだけで単価は変わらず、次のラウンドまでの期間が短くなります。
「投資家に20%」と決めてから株数を逆算する順序でも表は作れますが、端数が出たときに株数を丸めることになります。丸めた結果、比率は20.0%ではなく19.97%になる。ここを無理に揃えようとして、意味のない株式分割を挟むことがあります。
順序は逆です。発行株数を決め、そこから比率が出ます。比率は結果であって、目標ではありません。
新株予約権を発行した、行使された、譲渡があった——いずれも登記や株主名簿に反映されますが、資本政策表は誰も更新を促してくれません。半年放置すると、どの時点の姿なのか誰にも分からない表になります。
デューデリジェンスでは、登記事項証明書・株主名簿・資本政策表の3つが突き合わされます。ここで初めてずれが見つかると、確認と訂正のやり取りが発生し、クロージングが遅れます。資金が必要なタイミングでこれが起きるので、影響は書類仕事の範囲にとどまりません。
持分は単価と株数で決まります。金額でも比率でもありません。そして表は、発行や行使があったその日に直してください。
資本政策表は、単体では正しさを確認できません。次の3つが一致して初めて信用される資料になります。
| 資料 | どこで手に入るか | 照合する項目 |
|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 法務局・オンライン請求 | 発行済株式総数、株式の種類、新株予約権の個数 |
| 株主名簿 | 自社で作成・保管 | 株主ごとの株式数、取得日 |
| 資本政策表 | 自社で作成 | 上記すべて+単価・潜在株式・比率 |
照合の順番は登記 → 株主名簿 → 資本政策表です。登記が最も外部から確認しやすく、動かしにくいためです。合わないときは、登記が正しくて表が古い、という結論になることがほとんどです。
照合は比率ではなく株数で行ってください。比率は丸めの影響を受けるため、一致しているように見えて実は合っていない、ということが起こります。
登記・株主名簿・資本政策表の3つを、比率ではなく株数で突き合わせます。合わないときの基準は登記です。
資本政策表を1枚の「現在の姿」として持つと、過去の経緯が消えます。実務で効くのは、取引ごとに1行を足していく履歴のシートを別に持つことです。
この履歴があると、「このときの単価はいくらだったか」という質問に即答できます。逆に履歴がないと、現在の姿から過去を逆算することになり、株式分割をはさんでいる場合は再現できません。
発行済株式総数や現在の株主は、登記と株主名簿から後から確認できます。しかし「そのラウンドで1株いくらだったか」は、履歴を残していなければ復元できません。1行のメモを残すかどうかで、後の手間が変わります。
「現在の姿」の表と、「取引の履歴」の表を分けて持ちます。後から復元できないのは履歴のほうです。
調達を決めてからでは遅い、というのが実務上の答えです。理由は単純で、投資家と話し始めた時点ですでに過去の発行を直せないからです。
作るきっかけとして分かりやすいのは次の3つです。
作り始める合図は「調達を決めたとき」ではなく、誰かに株式を渡す話が出たときです。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。