支払期日が60日を超えている、代金を一方的に減らされた、検収がいつまでも終わらない。こうした場面で取れる手は、その取引が下請法の対象かどうかで大きく変わります。
対象であれば、60日という上限は合意の有無に関係なく守られなければならないものになります。相手には法律上の義務が生じ、行政の窓口に相談する道も開けます。対象でなければ、同じ主張をしても「契約は契約です」で終わってしまいます。
つまり判定は、交渉のカードが1枚あるかないかを決める作業です。先に確かめておけば、話の持っていき方が変わります。
対象なら60日上限に強制力があり、相手に義務が生じます。対象外なら契約の話にとどまります。交渉に入る前に、どちらなのかを確定させてください。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)の対象になるかどうかは、次の順で確かめます。どれか1つでも外れれば対象外です。
| 段階 | 問い | はい | いいえ |
|---|---|---|---|
| 1 | 4類型のいずれかに当てはまるか | ↓ 段階2へ | 対象外 |
| 2 | 資本金の組み合わせが条件を満たすか | ↓ 段階3へ | 対象外 |
| 3 | 取引の実態が「委託」といえるか | 対象 | 対象外 |
段階2でつまずく人が最も多いのですが、実際に見落とされやすいのは段階1です。資本金を調べる前に、まず仕事の種類を確定させてください。
よくある間違いは、資本金だけを見て判断してしまうことです。資本金の条件を満たしていても、委託の種類が当てはまらなければ対象外になります。順番に見ていきます。
下請法が扱うのは、次の4つの類型です。自社が受けている仕事がどれにあたるかを決めます。
| 類型 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 製造委託 | 物品の製造・加工を委託する | 部品の製造、OEM生産、金型製作 |
| 修理委託 | 物品の修理を委託する | 機械の修理、保守作業 |
| 情報成果物作成委託 | プログラム、映像、デザイン、文章などの作成を委託する | システム開発、アプリ制作、動画制作、ロゴデザイン、記事執筆 |
| 役務提供委託 | 役務(サービス)の提供を委託する | 運送、倉庫保管、情報処理、ビルメンテナンス |
スタートアップや小規模事業者が関わるのは、多くの場合3つ目の情報成果物作成委託です。システム開発、Webサイト制作、デザイン、コンテンツ制作はここに入ります。
この4類型のうち、資本金の基準が2通りに分かれます。同じ「情報成果物作成委託」でも、プログラムの作成かそれ以外かで、適用される金額が変わります。
| グループ | 含まれるもの |
|---|---|
| A(3億円の区分) | 製造委託、修理委託/情報成果物作成委託のうちプログラムの作成/役務提供委託のうち運送・物品の倉庫保管・情報処理 |
| B(5,000万円の区分) | 上記以外の情報成果物作成委託(デザイン、映像、文章など)/上記以外の役務提供委託(コンサルティング、清掃、警備など) |
「プログラムの作成」にあたるため、3億円の区分で判定します。一方、UIデザインだけを請け負う、記事を書く、動画を作るといった仕事はBグループで、5,000万円の区分になります。同じ会社との取引でも、案件の内容によってグループが変わることがあります。
まず4類型のどれかを決め、次にAグループ(3億円区分)かBグループ(5,000万円区分)かを判断します。プログラム作成はA、デザインや制作物はBです。
グループが決まったら、発注側(親事業者)と自社(下請事業者)の資本金を当てはめます。両方の条件を同時に満たしたときだけ対象になります。
| 発注側の資本金 | 自社の資本金 | 判定 |
|---|---|---|
| 3億円超 | 3億円以下(個人事業主を含む) | 対象 |
| 1,000万円超〜3億円以下 | 1,000万円以下(個人事業主を含む) | 対象 |
| 1,000万円以下 | — | 対象外 |
| 発注側の資本金 | 自社の資本金 | 判定 |
|---|---|---|
| 5,000万円超 | 5,000万円以下(個人事業主を含む) | 対象 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1,000万円以下(個人事業主を含む) | 対象 |
| 1,000万円以下 | — | 対象外 |
この表で見落としやすいのが、発注側の資本金が1,000万円以下なら、どんな取引でも対象外になるという点です。相手が小規模な会社なら、下請法は使えません。
逆に、自社が個人事業主なら、資本金の条件は常に満たします。あとは相手の資本金だけを確認すれば済みます。
注意したいのは、グループ会社間で発注元が変わる場合です。親会社の資本金が3億円超でも、実際の発注が資本金1,000万円の子会社から出ていれば対象外になります。契約書の当事者がどの法人かを確認してください。
判定は発注が行われた時点の資本金で行います。契約締結後に相手が増資しても、すでに発注済みの取引の判定は変わりません。逆に、継続的な取引では発注のたびに判定が変わる可能性があります。
自社が期中に増資して基準を超えた場合、その後の発注分は対象外になります。取引の途中で保護がなくなることがある点は、増資を計画する際に押さえておいてください。
資本金の小さい子会社を間に挟めば下請法を回避できる、という抜け道は塞がれています。親会社から実質的に支配されている会社が、親会社の下請取引をそのまま流しているような場合、その子会社も親事業者として扱われます。
具体的には、議決権の過半を握られているなどの支配関係があり、かつ発注内容の相当部分が親会社からの取引と重なっている場合が該当します。相手がグループ会社経由で発注してきたときは、対象外と即断せず確認してください。
発注側と自社の資本金が両方とも条件を満たしたときだけ対象です。相手の資本金が1,000万円以下なら常に対象外。自社が個人事業主なら、自社側の条件は必ず満たします。
類型と資本金の条件を満たしていても、取引の実態が「委託」でなければ対象外です。下請法は、発注する側とされる側という関係を前提にしています。
| 契約の形 | 判定の考え方 |
|---|---|
| 共同研究契約 | 双方が費用とリスクを負担し、成果を共有する形なら委託にあたらない可能性が高い |
| 共同事業・ジョイントベンチャー | 対等な当事者として事業を行う形なら対象外 |
| 自社サービスの販売 | 相手の指定した仕様で作るのではなく、既製のサービスを売っているなら委託ではない |
| ライセンス契約 | 自社が持つ権利を許諾する契約であり、委託にはあたらない |
スタートアップが注意すべきなのは共同研究契約という形をとったPoCです。実態として大企業の仕様どおりに開発しているのに、契約名が共同研究になっていると、下請法の保護が及ばない可能性があります。
逆に、契約書に「業務委託契約」と書かれていなくても、実態が委託であれば対象になります。判断されるのは仕様を誰が決め、成果物の責任を誰が負い、対価がどう決まっているかです。迷う場合は公正取引委員会・中小企業庁の窓口で確認してください。
実際の取引を当てはめてみます。
| ケース | 類型・グループ | 資本金 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 資本金5億円の企業から、業務システムの開発を受託(自社は資本金500万円) | 情報成果物作成/プログラム=A | 5億円超 × 3億円以下 | 対象 |
| 資本金1億円の企業から、サービスサイトのデザイン制作を受託(自社は個人事業主) | 情報成果物作成/デザイン=B | 5,000万円超 × 個人 | 対象 |
| 資本金3,000万円の企業から、記事の執筆を受託(自社は資本金300万円) | 情報成果物作成/文章=B | 1,000万円超5,000万円以下 × 1,000万円以下 | 対象 |
| 資本金3,000万円の企業から、記事の執筆を受託(自社は資本金2,000万円) | 同上=B | 自社が1,000万円超 | 対象外 |
| 資本金800万円のスタートアップから、アプリ開発を受託 | プログラム=A | 発注側が1,000万円以下 | 対象外 |
| 資本金10億円の企業と、対等な費用負担で共同研究を実施 | 委託にあたらない | — | 対象外 |
3行目と4行目を見比べてください。取引の中身も相手も同じなのに、自社の資本金が1,000万円を超えているかどうかだけで結論が変わります。増資を検討している場合は、この線を越えることの影響も頭に入れておいてください。
下請法の対象なら、発注側には次の義務が生じます。守られていなければ、それ自体を指摘できます。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 書面の交付 | 発注内容・代金・支払期日などを記載した書面を、発注時に直ちに交付する |
| 書類の作成・保存 | 取引の記録を作成し、2年間保存する |
| 支払期日を定める | 給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に定める |
| 遅延利息の支払 | 支払が遅れた場合、年14.6%の遅延利息を支払う |
最初の「書面の交付」は、実務でもっとも軽視されがちな義務です。口頭やチャットだけで発注が進み、書面が出ていない取引は、この時点ですでに違反状態にあたる可能性があります。
「書面の交付」は形式的に紙を渡せばよいというものではなく、記載すべき事項が定められています。主なものを挙げます。
実務で問題になりやすいのは、代金の額と支払期日が空欄のまま発注されるケースです。「金額は後日協議」という形は、この義務を満たしていない可能性があります。電子メールやシステム上の発注でも、同じ事項が記録されていれば書面として扱われます。
あわせて、発注側には次のような行為が禁止されています。代表的なものを挙げます。
最後の報復措置が禁止されている点は重要です。相談したことで取引を切られるのではないか、という懸念そのものが法律で手当てされています。
対象なら、発注側には書面交付・書類保存・60日以内の支払期日設定・遅延利息の4つの義務があります。発注書が出ていない時点で違反の可能性があり、行政に相談したことを理由とする報復も禁止されています。
いきなり行政に持ち込む前に、順序があります。
具体的な進め方は支払期日が60日を超えていたときに取れる手段で扱います。まずは1と2で解決することが多いという点は、先に知っておく価値があります。
下請法の対象でなくても、打つ手がないわけではありません。
| 手段 | 使える場面 |
|---|---|
| 独占禁止法(優越的地位の濫用) | 資本金の条件を満たさなくても、取引上の力関係に著しい差があり、不当な条件を押し付けられている場合 |
| 契約に基づく請求 | 契約書の条件に反する扱いを受けている場合。遅延損害金の請求も含む |
| 次回契約での条件交渉 | 法的な強制力はないが、着手金の設定など現実的な着地点を探る |
| 下請かけこみ寺への相談 | 取引上のトラブル全般。対象外の取引でも相談できる |
支払サイトそのものを短くする交渉の進め方は支払いサイトとは|締め日・支払日の数え方を1からで詳しく扱っています。
2026年1月1日に改正法が施行され、法律の名称と規制の内容が変更されています。取引の当事者を指す用語の見直しや、規制対象となる行為の追加が行われました。
ただし、判定の骨格である「4類型」と「資本金区分」の考え方、および支払期日の60日という上限そのものは、従来から続く枠組みです。この記事の判定手順は、その前提で書いています。
適用の可否は、資本金・委託の種類・取引の実態を個別に見て判断されます。実際の対応にあたっては、必ず現行条文を原典で確認し、公正取引委員会・中小企業庁の窓口、または弁護士にご相談ください。
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