
コンバーティブルエクイティは、いまの時点で株価(バリュエーション)を決めずに資金を入れ、次の本格的な調達ラウンドで株式に転換するという調達の型です。国内ではJ-KISSと呼ばれる雛形が広く使われており、シード期の資金調達でよく登場します。
ふつうの増資では、投資家からお金を受け取る前に「この会社はいくらか」という評価額を確定させます。ところが事業がまだ小さく、数字も揃っていないシード期に評価額を決めるのは、双方にとって難しい交渉です。コンバーティブルエクイティは、その評価額の確定を次のラウンドまで先送りにすることで、この難所を後回しにできます。
コンバーティブルエクイティは、株価を今決めずに資金を受け入れ、次の調達で株式に転換する仕組みです。評価額の交渉を先送りできる点が最大の特徴で、シード期に使われます。
この手段の本質は、資金と同時に「評価額を決めるまでの時間」を得られることにあります。事業が伸びている局面では、数か月で会社の姿は大きく変わります。いま評価額を確定させるより、もう少し数字を積んでから交渉したほうが、条件は良くなりやすい——その差を取りにいくのがこの手段です。
逆に、資金が尽きかけているのに評価額でもめて調達が長引くと、事業そのものが止まります。コンバーティブルエクイティは契約書がシンプルなぶん交渉が速く、当座の資金を早く入れて、評価額の議論は次に回すという順序を取れます。これが「時間を買う」と表現される理由です。
お金の流れと株式への転換は、次の順番で進みます。
ポイントは、先に入れた投資家は、次のラウンドの投資家とまったく同じ株価では転換しないことです。早い段階でリスクを取ったぶん、キャップやディスカウントという仕組みで、より有利な株価に換算されます。この2つが、コンバーティブルエクイティの心臓部です。転換のきっかけとなる「次の本格的な調達」は、契約のなかで一定額以上のエクイティ調達(適格資金調達)として定義されるのが通例で、その水準をいくらに置くかも交渉の対象になります。
先に入金 → 次のラウンドで評価額が決まる → その評価額(+優遇)で株式に転換
入金と株式発行の間に時間差がある点が、通常の増資と根本的に異なります。
先に入れた投資家を守るのが、評価上限(キャップ)と割引(ディスカウント)の2つです。どちらも「早く入れた人が損をしないように、転換時の株価を調整する」ための仕組みです。
| 仕組み | 何をするか | 投資家にとっての意味 |
|---|---|---|
| 評価上限(キャップ) | 転換時に使う評価額に上限を設ける | 次のラウンドで評価額が高騰しても、上限で計算されるので有利に転換できる |
| 割引(ディスカウント) | 次ラウンドの株価から一定率を引く | 同じラウンドの新規投資家より安い株価で株式を得られる |
具体的な数値の例で考えます。次のラウンドの株価が1株1,000円で、ディスカウントが20%と定められていたとします。すると先に入れた投資家は、1株800円で計算されて株式を得ることになります。同じ額を入れても、より多くの株式を受け取れる——これが早く動いたことへの見返りです。たとえば800万円を入れた投資家は、割引後の800円で割ると1万株を受け取れます。割引がなければ1,000円で8,000株ですから、差の2,000株が早期に動いたぶんの上乗せです。キャップは、評価額が想定以上に上がったときに、転換株価が青天井にならないよう守る役割を担います。キャップと割引の両方が定められている場合は、投資家に有利なほう(=より安く転換できるほう)が使われるのが一般的です。
キャップの金額もディスカウントの率も、法律で決まった数字ではなく、会社と投資家の交渉で個別に決めるものです。ここが後の希薄化(持分の薄まり)に直結するため、条件を軽く決めると、次のラウンドで想定以上に株式を渡すことになりかねません。
資金の入れ方は、大きく「今すぐ株式にする増資」「返す前提の借入」「あとで株式にするコンバーティブル」の3つに分かれます。どこが違うのかを並べます。
| 普通の増資 | 借入 | コンバーティブルエクイティ | |
|---|---|---|---|
| 評価額を決めるのは | 今 | 不要 | 次のラウンド |
| 株式の発行は | 今すぐ | なし | 転換時にまとめて |
| 返済義務 | なし | あり | 原則なし(転換が前提) |
| 交渉の重さ | 重い(評価額でもめる) | 中 | 比較的軽い |
| 向く局面 | 数字が揃った調達 | 返済原資が読める資金 | 評価額を決めにくいシード期 |
借入とよく混同されますが、コンバーティブルエクイティは返して終わりではなく、株式に変わることを前提にした資金です。運転資金の立替やつなぎのように「入って、回って、返す」お金とは性格が違います。何をエクイティで賄い、何を短期資金で埋めるかの切り分けは別の記事に譲ります(後述の「あわせて読む」を参照)。
コンバーティブルは「あとで株式にする」エクイティ寄りの資金です。今すぐ株にする増資、返す前提の借入とは性格が異なり、評価額を決めにくい局面で効きます。
この手段が効くのは、次のような局面です。
逆に、次のラウンドの見通しが立っていない状態で使うと、転換のきっかけが訪れず、条件だけが残ることになりかねません。あくまで「次の調達につなぐための手段」であり、次が見えていることが前提になります。ラウンドとラウンドの間の谷や、出資内定から着金までの空白を埋める話は、それぞれ別の記事で扱います。
もう一つ意識したいのが、「時間を買う」対象は評価額であって、資金の使い道ではないという点です。コンバーティブルで入れた資金を、立替や運転資金のような回転するお金に充てると、次のラウンドが来るころには手元に残らず、転換だけが起きて持分は薄まった、という結果になりがちです。エクイティで入れた資金は、次の評価額を引き上げる成長投資に向けるのが筋です。当座の立替やつなぎは、返して終わる短期の資金で埋めるほうが、株式を守れます。
コンバーティブルエクイティの利点を、順に並べます。
| メリット | 中身 |
|---|---|
| 評価額の先送り | 今もめずに、数字が積んだ次のラウンドで評価額を決められる |
| 調達が速い | 契約が定型化されており、交渉・手続きが比較的短く済む |
| 当面の返済がない | 転換が前提のため、借入のような毎月の返済負担がない |
| 早期投資家を優遇できる | キャップ・割引で、リスクを取った投資家に報いられる |
とくに大きいのは、速さです。評価額の交渉は、増資でもっとも時間がかかる部分です。そこを次に回せることが、資金を急ぐシード期には効きます。複数の投資家から少額ずつ集めるときも、同じ雛形と条件で揃えられるため、一人ひとりと個別に評価額を詰めるより手続きが軽くなります。ただし、速さと引き換えに先送りにした論点は、転換の瞬間に必ず戻ってきます。それが次章の注意点です。
メリットの裏返しとして、いくつかの注意点があります。いずれも「今は見えにくく、転換時に効いてくる」性質のものです。
コンバーティブルエクイティの条件設計は、将来の持分と支配権に直結します。J-KISS等の雛形は出発点にすぎず、キャップ・割引・満期・転換条件の具体は、弁護士・税理士など専門家に確認したうえで決めるのが安全です。本記事は一般的な仕組みの説明にとどまり、個別の条件や税務・会計の判断を示すものではありません。
実際に使うときの大まかな流れは、次のようになります。制度や書式は変わり得るため、最新の雛形と専門家の助言を前提にしてください。
肝は、3と4を飛ばさないことです。速く進められるのが利点ですが、先送りにした条件こそ、専門家を交えて詰めておく——それが後の希薄化トラブルを避ける最短路です。
次のラウンドまでの当座を、株式を薄めずに売掛金で埋める選択肢もあります。売掛金の額と入金してほしい時期を入力すると、掲載102社のうち条件に合う事業者と、手取り額の目安が出ます。5問・約30秒、登録は不要です。
→ バリュエーションを下げずに当座をしのぐ選択肢
→ エクイティで調達すべき資金と、短期で埋める資金の切り分け
→ 出資が決まる前のつなぎ資金|シード〜シリーズA前の数か月を耐える
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の法務・税務・会計の助言ではありません。コンバーティブルエクイティの条件設計、契約内容、税務・会計の扱いは個別の事情により異なります。具体的な導入にあたっては、弁護士・税理士など専門家、および出資者にご確認ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。