Tadaku
外国人が教える家庭料理教室
サービスについて
スタートアップ情報
投資情報
ニュース
5
メンバー
1

ニュース

2016.08.25
MEDIA

ホームステイ感覚で英語や料理が学べる教室『Tadaku』体験レポート (@DIME)

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

◆ホームステイ感覚で英語や料理が学べるサービス

 2013年に設立された『Tadaku』は、日本在住の外国人が、自宅で自国の家庭料理を日本人に教える料理教室。参加者は20~40代女性が多く、3時間半~4時間のレッスンでプチホームステイ体験ができると好評を博している。現在、登録されているホストは40か国63人。毎週新しい講師が加わっているとのことで、イタリアやフランス、インドといったメジャーな料理のホストも多いが、ペルー、ブラジル、メキシコなどの南米、マラウイ、ルーマニア、ウイグルといった日本にはあまりなじみのない料理を紹介するホストもいる。

 Tadakuのファウンダーであり、講師のTao Romera Martinez(タオ・ロメラ・マルティネス)さんによる報道関係者向けの体験会が開催された。スペイン出身のタオさんは日本に来て11年。流暢な日本語と巧みな話術、故郷のムルシアのシンプルで体に優しい郷土料理を紹介している。現在は運営の仕事がメインで料理教室は月に1回程度ということもあり、レッスンの掲載をすると数時間で満席になる人気講師だ。

「レッスンとはいえカジュアルな雰囲気でホームクッキングパーティーみたいなもの。デモンストレーションとかプロフェッショナルではなく、料理を通じてその国の文化を知ろうというのがコンセプトで、地元の人しか知らない情報や、本場の味を楽しめるのが特徴。

 豪邸に住む講師もいれば、狭いアパート住んでいる講師もいて国も環境も多種多様。教え方や人柄はそれぞれなので、生徒もフランスのマダム的な先生を好む人もいれば、南米系のノリの良い先生が好きな人もいる。参加者の方も本格的に料理を勉強したい人だけではなく、料理を普段あまりしなくても作る過程が楽しめて本場の味を食べられるということで参加する人、旅行に行く前に情報収集を兼ねている人もいて目的もさまざま。料理を通じて外国の文化を楽しむという共通のテーマを持っている皆さんが集まってくる。ただし、人数が増えてしまうと料理を通じての異文化交流ができなくなってしまうので、参加者は4~7人ほどにしぼっている」(タオさん)

 タオさんは日本語が堪能だが、他の講師も半数以上は日本語が話せる。英語のみという講師でもゆっくりと話しながら指導してくれるので言葉の不安はほとんどない。逆に英語を学びたいという人には語学と料理を同時に学べるので、ホームページにあるホストの紹介を参考に選んでみてはいかがだろうか。また、手話通訳付きのレッスンを始めたところ好評だったとのことで、今後さらに増やしていく予定だという。

◆おしゃべりと料理が同時進行!クッキングパーティーのようなレッスンで盛り上がる

 体験会はタオさんの自宅のキッチンで行われた。アパートの一室なので広いとはいえないが、部屋の真ん中を占める大きなテーブルの上には、レッスンで使う色鮮やかな野菜が並ぶ。使う食材は高価なものではなく、近所のスーパーや量販店で買えるものがメイン。料理の合間に食材の説明や現地の食文化、タオさん自身のお話など、おしゃべりと笑い声が絶えないアットホームな雰囲気でレッスンが進んだ。

 

 今回は体験会なので通常のレッスンより短い時間だったため、「アーティチョークとアンチョビの夏のタパス」、「ガスパッチョ」、「コルディアレス」の3品を作ることに。夏場ということでさっぱりとしたメニューで、いずれもタオさんの故郷・ムルシアで食べられているスペインの地中海料理だ。

○アーティチョークとアンチョビの夏のタパス(Alcachofas con Anchoa)

 タパスとはおつまみのような小皿料理のこと。スペインはアーティチョーク畑がたくさんあり廉価なので、炒めものやオーブン焼きなどいろいろな料理に使うという。しかし日本では生のアーティチョークが入手しにくいので安く買える瓶詰を使用。今回使用したのはコストコの「アーティチョークのマリネ」。スペインでもタパスには瓶詰を使うそうで、今回は3種類のタパスを作った。最初にタオさんが手本を見せてくれるが、アーティチョークにハム、プチトマト、モッツァレラチーズ、アンチョビの材料を切って楊枝に挿すだけなので、参加者から「それだけ?」と笑いが起こるが、見栄えもよくホームパーティーなどでも喜ばれそうだ。食べる直前に全体にレモンとオリーブオイルをかける。

「レモンはプールになるほどたくさんかけるので、置いておくとマリネになってしまう。必ず食べる直前にかけて。オリーブオイルも生野菜にかけると30分でしなっとしてしまうので、やはり食べる直前に。生ハムではレモンと合わないのでロースハム使うとおいしい」(タオさん)

 タオさんの地元ではレモンがあちらこちらにたくさんあって、庭からもぎって使っているとか。切り傷や口内炎の殺菌にもレモンを使うそうだが、やはりしみて痛いらしい。スペインではレモンを車のツヤ出しや、髪の毛のワックス代わりにも使うとのこと。固まるのにべたべたにならないと市販のワックスよりいいという人もいるそうだが、酸で髪の毛が脱色されるのが難点だとか。

○コルディアレス(Cordiales)

 コルディアレスはアーモンド、シナモンなどを使ったスペインのクリスマスの伝統的な菓子。スペインはアーモンドの生産量が多くアーモンドを使った菓子が多いという。生地の中にジャムを詰めて焼くが、中身は「そうめんかぼちゃジャム」。タオさんが連発する「そうめんかぼちゃ」という言葉に参加者から「そうめんかぼちゃって何!?」との声が。そうめんかぼちゃのジャムを試食させてもらうが、通常のかぼちゃの甘さと違ったあっさりとした味だった。

「かぼちゃを使う料理は『ジプシー鍋』という、かぼちゃや梨を入れるユニークな料理もあるけれど、かぼちゃは夏に食べたくない料理が多いし、秋が旬なのでどうしようかと困った(笑)。それで今回は岡山県産のそうめんかぼちゃを使うことに。スペインでは『天使の髪』と呼ばれるそうめんかぼちゃで作った伝統的なジャムがある。そうめんかぼちゃでジャムを作ると、果肉がほぐれて細い糸みたいなものがたくさん出てくるのでこの名がついた。今回は地元の代表的なジャムで作ったコルディアレスを作る。

 ムルシアは牛が育つ環境ではなく、ヤギが育てられていて乳製品もヤギのものばかり。スコーンはバターを使うけれど、地元ではバターの代わりにオリーブオイル、サラダオイル、ラードなどを使う。コルディアレスはすごくシンプルだけど故郷の味でおいしい」(タオさん)
 
 生地は卵3個、アーモンドパウダー300g、アーモンドダイス200g、砂糖200g、シナモン小さじ1、半個分のレモンの皮をボウルに入れてよくこねる。生地を手に取り、そうめんかぼちゃジャムをのせて包む。ツヤを出したい場合は溶き卵を表面にブラシで塗って、180℃のオーブンで15分ほど焼けば完成。アーモンドダイスは高いので粒のまま買ってタオさん自身で砕いて使っている。レモンの皮は白い部分が入らないように表面だけ削るようにする。

 

 コルディアレスはシナモンが入っているため子どものころはあまり好きではないが、大人になると好きになる菓子だとタオさんは言う。「大人になってから好きになるという意味では生八つ橋みたいな感じ。作り方も和菓子と似ている」という参加者の声も。

○アンダルシア風ガスパチョ(Gaspacho Andaluz)

日本でもおなじみの冷たいトマトスープ。ガスパッチョは地域色があり、アンダルシア風はトマトベースの一番メジャーなタイプ。ラマンチャ地方ではきゅうりと肉だけで作るガスパチョもあるそうだ。

「トマトの熟れ具合やきゅうりの新鮮さで味が変わるので最終的に細かく味を調整しなければいけない。分量はレシピ通りだが、オリーブオイルやバルサミコは酸味や甘みを調整して味を作る。日本だとしょうゆ、みりんを分量ごとに足して味を作るが、スペインはオリーブオイルが基本となっていてそこに他の味を足していく。すべての味はオリーブオイルで決まるので、土台となるオリーブオイルがおいしくないと料理がだめになる。味付けというより基礎という感じ。使うのは必ずエキストラバージンで。コールドプレスで一番搾りというある程度の条件を満たさないとエキストラバージンにはならないので、味が保証されている。ブランドやメーカーは好みのもので構わない。高価なブランドでなくても充分においしい。オリーブオイルは血管の流れを良くするなど、体に良いものなので、スペインではそのまま飲む人も多い。ひいおばあさんもオリーブオイルを飲んでいて96歳の長寿だった」(タオさん)

 7人分でトマト(大)8個、ピーマン2個、きゅうり3本、ニンニクは1かけの3分の2ほどで、いずれも適度な大きさにカット。それらをミキサーで撹拌しスープ状に仕上げる。

 スープ状になったところで、塩、コショウ、オリーブオイル、バルサミコで味を調えるが、何度も味見をしながら味の変化を確認する。タオさんは5~6回、味見を繰り返し調整していた。

「トッピングはゆで卵、生ハムダイス、クルトンなど好みで。クルトンは食パンをオリーブオイルで揚げたホームメイド。日本では生ハムの塊はほとんど無いのでカリカリに炒めたベーコンで代用。トマトに合いそうなバジルはトッピングとしてはいまいちだけど、実は青じそがとても合う。青じそが無いスペイン人がかわいそうと思うぐらい(笑)」(タオさん)

 オリーブオイルが分離してしまうので作ってから冷やすのはNG。冷たいガスパッチョにするには、作る1時間前に(冷やし過ぎると味が変わってしまうので注意)野菜を冷やしておく。今回はスペイン人がやっているガスパチョの中に氷を入れて食べる方法で。

 テーブルセッティングして試食タイム。今回のメニューは夏のランチにぴったりな、さっぱりした料理が並ぶ。タオさんの地元、ムルシアの料理は肉が少ないということで、今回も野菜だけを使ったレシピばかりだ。

 タオさんが作り置きしていた「エスカリバダ(Escalibada)」もテーブルに並ぶ。こちらはカタロニア地方の料理で、オーブンで野菜を焼いてオリーブオイルで和えたものでシンプルだがとてもおいしい。バゲットにのせていただくが、エスカリバダ自体にオリーブオイル以外の味は入っていないので、塩を振ったり、アンチョビを足して食べる。冷蔵庫で3日ほど保存できる。

【AJの読み】身近に異文化体験ができる料理教室

 タオさんの流暢な日本語に驚き、調理をしながらプチインタビュー。料理は18歳でフランスの大学に行くため一人暮らしを始め、自炊で作り始めたのがきっかけだったとか。フランスで4年半学んだあと東京工業大学に留学。1年ほど電子通信工学を学び日本で就職し、6年ほどエンジニアとして仕事をしていたそうだ。

「技術系の仕事は楽しかったけど、研究開発とか回路とか作っていても受け取った人が幸せになっているという実感がなく、社会にインパクトを与える仕事に自分の時間を費やしたいと思うようになった。Tadakuの仕事を立ち上げてから、文化交流でお互いの人柄を知ることができ、有意義な時間を過ごせるので、社会的な活動をしていると実感できるようになった。
日本に来て半年で大学を卒業したんだけど、同じ研究室にそのあと半年いて1年いることになった。そのころは日本語を覚えるピークだったからもう少しいたいなと思っていたら11年経っていた(笑)。人生の3分の1は日本にいることになるね」(タオさん)

 余談だがタオさんの住まいは我が家のご近所で、取材は自転車でうかがった。日本に住んでいる外国人も増えているが、世界の共通言語である“料理”を通じて、身近に異文化体験ができるTadakuのサービスは等身大の文化交流といえるかもしれない。

文/阿部 純子