
でんさい割引とファクタリングは、どちらも「入金の前に売上を現金化する」手段ですが、資金化する対象がそもそも違います。でんさい割引はすでに発行された電子記録債権(でんさい)を割り引くもの、ファクタリングはまだ手形化されていない売掛債権そのものを売るものです。
つまり、取引先がでんさいで支払ってくれる関係にあるかどうかで、そもそも使える手段が変わります。でんさいが発生していなければでんさい割引は使えませんし、逆にでんさいがあるなら、ファクタリングより割引のほうが安く済むことが多い、という関係になります。
でんさい割引は発行済みのでんさいを割り引く、ファクタリングは売掛債権を売る。資金化する対象が違うため、まず「取引先とでんさいでやり取りしているか」が入口の分かれ目になります。でんさい自体の作り方・回し方は別記事で詳しく扱います。
でんさい(電子記録債権)は、紙の約束手形をデジタル化したような仕組みです。取引先が支払う代わりにでんさいを発生させ、受け取った側は支払期日にその金額を受け取ります。この期日を待たずに、金融機関などに割り引いてもらって早く現金化するのがでんさい割引です。
紙の手形と考え方は同じで、額面から支払期日までの利息相当(割引料)を差し引いた金額を受け取ります。電子化されているぶん、紛失や印紙税の負担がなく、分割して譲渡できるといった扱いやすさがあります。
額面 − 割引料(額面 × 割引率 × 期日までの日数 ÷ 365) = 手取り
割引料は、支払期日までの期間が長いほど大きくなります。金利に近い性質で、年率で示されるのが一般的です。でんさいの発行や登録の実務そのものは、この記事では扱いません。
でんさい割引は、手形割引と同じく金融機関との与信取引として扱われるのが基本です。したがって、割引を受けるには金融機関の審査があり、割引枠の設定が前提になります。
ファクタリングは、まだ入金されていない売掛債権を第三者に売却して現金化する手段です。でんさいや手形のように「証券化された債権」でなくても、請求書ベースの売掛金であれば対象になります。借入ではなく債権の売買なので、負債として計上されず、決算書上の負債を増やさずに資金化できるのが特徴です。
取引の形には、利用者と買い手だけで完結する2社間と、売掛先も加わる3社間があります。2社間は売掛先に知られずに使えるぶん手数料が高く、3社間は売掛先の関与がある代わりに手数料が低い、という関係が一般的です。
数字はあくまで目安で、売掛先の信用力・債権の額・支払サイトによって大きく変わります。同じ売掛でも、条件次第で手数料は上下します。
ここまでの違いを、一枚の表にまとめます。資金化の対象・償還請求・コスト・審査で見るところが、選ぶうえでの主な比較軸です。
| でんさい割引 | ファクタリング | |
|---|---|---|
| 資金化する対象 | 発行済みの電子記録債権(でんさい) | 売掛債権(請求書ベースでも可) |
| 取引の性質 | 割引(金融機関との与信取引) | 債権の売買 |
| 負債になるか | 割引枠は与信として扱われる | 負債にならない(売買のため) |
| 償還請求 | あり(不渡り時は買い戻し) | なしが原則(ノンリコース) |
| 審査で主に見るもの | 利用企業自身の信用 | 売掛先の信用 |
| コスト水準 | 割引率(年率・比較的低め) | 手数料(2社間8〜18%/3社間2〜9%) |
| 使える前提 | 取引先がでんさいで支払う関係 | 売掛債権があればよい |
| 取引先への通知 | 制度上、記録として関与 | 2社間は不要/3社間は必要 |
大きな差は償還請求の有無と審査で見る対象です。でんさい割引は自社の信用で借りるのに近く、不渡り時は買い戻し義務がある。ファクタリングは売掛先の信用が軸で、原則買い戻し義務がない。コストは一般にでんさい割引のほうが低めです。
両者を分ける最も大きな違いが、償還請求の有無です。ここを理解しないと、コストの高さだけで判断を誤ります。
でんさい割引は、割り引いた後でそのでんさいが不渡り(支払期日に支払われないこと)になると、割引を受けた側が買い戻す義務を負うのが原則です。つまり、支払企業が倒れたときのリスクは、割り引いた自社に戻ってきます。手形割引と同じ構造です。
一方、ファクタリングは原則としてノンリコース(償還請求なし)です。売掛先が支払えなくなっても、利用者が買い戻す必要は原則ありません。売掛先の倒産リスクを、手数料と引き換えに移転している、という見方ができます。
ファクタリングの手数料が割引料より高く見えるのは、売掛先が支払えなくなるリスクを引き受けている分が上乗せされているためでもあります。単純に「でんさい割引のほうが安い」で終わらせず、誰が貸倒リスクを負うのかまで含めて比べるのが正しい見方です。とはいえ、その差を年率に直すとファクタリングは相当割高になりやすく、常用には向きません。
コストは、でんさい割引が割引率(年率)、ファクタリングが手数料率(1回あたり)で示されます。単位が違うため、そのまま並べると比較を誤ります。ファクタリングの手数料も年率に直して比べるのが公平です。
例で見ます。額面100万円・支払期日まで60日の債権を、ファクタリングで手数料5%で資金化したとします。1回で5万円のコストですが、これを年率に直すと次のようになります。
5% ÷ 60日 × 365日 = 年率およそ30.4%
同じ債権をでんさい割引で年率数%の割引料で割れるなら、コストは一桁違います。手数料率だけを見ると「たった5%」でも、期間を織り込むと大きく変わります。年利換算の詳しい計算は別記事で扱います。
| でんさい割引 | ファクタリング(例) | |
|---|---|---|
| 1回あたりの表示 | 割引率(年率) | 手数料5% |
| 60日で年率換算 | 年数%程度 | 年率およそ30% |
| 買い戻しリスク | あり | 原則なし |
つまり、でんさいで支払ってもらえる取引で、かつ買い戻しリスクを自社で負えるなら、でんさい割引のほうがコストは低く済むことが多いといえます。ファクタリングは、でんさいが使えない相手や、売掛先の倒産リスクを移したい場面で価値が出ます。数値は前提により変わるため、実際の割引率・手数料は個別に確認してください。
スピードにも差が出ます。でんさい割引は金融機関の割引枠が前提のため、枠がすでにあれば早いものの、枠の設定からとなると審査に時間がかかります。ファクタリングは、とくに2社間なら最短即日での資金化をうたうものもあり、急ぎの場面では速いことが多いです。
| 場面 | 向きやすい手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 取引先がでんさいで支払う | でんさい割引 | 割引料が低く、枠があれば速い |
| 請求書ベースの売掛しかない | ファクタリング | でんさいが無くても資金化できる |
| 数日以内に現金が要る | ファクタリング(2社間) | 最短即日の資金化がある |
| 売掛先の倒産リスクを移したい | ファクタリング | 原則ノンリコース |
| できるだけコストを抑えたい | でんさい割引 | 年率で見て割引料が低め |
でんさいで支払われる関係で、割引枠があるならでんさい割引がコスト面で有利。でんさいが無い・数日で現金が要る・倒産リスクを移したいならファクタリング。速さとコストとリスク移転のどれを優先するかで分かれます。
「取引先に資金繰りの苦しさを知られたくない」という心配は、どちらでも論点になります。ここも仕組みが違います。
でんさいは制度上、電子記録として支払企業も関与する仕組みです。もっとも、でんさいで支払うこと自体が取引の前提になっているため、割り引いたこと自体が特別に知られるというより、そもそもでんさい取引が成立している関係が前提になります。
ファクタリングは、2社間なら売掛先に通知せずに使えます。3社間は売掛先の承諾・関与が必要なため、知られます。「知られたくない」を最優先するなら2社間ですが、そのぶん手数料は高くなる、というトレードオフです。
債権譲渡やでんさいの利用は、資金効率を高める正当な財務手段です。取引先に知られること自体が信用を損なうとは限りません。ただし相手の受け止め方は関係性によるため、関係が浅い相手や大口の取引先には、事前の一言があると無難です。
最後に、選び分けの軸を整理します。順番に当てはめると、自社に向くほうが見えてきます。
どちらか一方に決めきる必要はありません。でんさいで支払われる分はでんさい割引、それ以外の売掛はファクタリングと、債権の性質ごとに使い分けるのが実務的です。いずれも常用すればコストが利益を削るため、本命は融資や運転資金の確保で、早期現金化は補助的に使うのが健全な位置づけです。
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→ でんさいの資金化|電子記録債権を現金化する方法
→ 売掛金を早く現金化する方法の全体像と選び分け
→ ファクタリングと手形割引の違い|コストと審査対象
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の財務・法務・税務の助言ではありません。でんさい割引・ファクタリングの条件や会計・税務上の扱いは、金融機関・取引内容によって異なります。具体的な利用可否や処理は、金融機関・弁護士・税理士にご確認ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。