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買戻特約が入っている契約は何が問題か

一定の場合に自社が債権を買い戻す買戻特約は、実質的な貸付と評価され得る条項です。なぜ問題になるのか、償還請求権との違い、契約書での見つけ方を整理します。

公開:2026年7月23日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 買戻特約とは何か
  2. 「売買」なのに買い戻す、という矛盾
  3. 償還請求権とどう違うのか
  4. 契約書のどこに書かれているか
  5. なぜ実質貸付と評価され得るのか
  6. 買戻特約が資金繰りに与える影響
  7. 見つけたときにどうするか
  8. よくある誤解
  9. 確認チェックリスト
  10. よくある質問

買戻特約とは何か

ファクタリングの契約書を読んでいて、一定の場合に自社が売った債権を買い戻すという趣旨の条項に出会うことがあります。これが買戻特約です。名前のとおり、いったん事業者へ譲渡した売掛債権を、あとから自社が代金を払って取り戻す(買い戻す)約束を指します。

買戻特約(かいもどしとくやく)

譲渡した債権について、売掛先が支払わなかったときなど一定の条件が生じたら、譲渡人(=資金を受け取った自社)が買い戻すと定める特約。「買戻」「買戻し義務」「再売買」「買取請求」など、契約書での言い回しはさまざまです。

本来のファクタリングは、売掛債権を事業者へ「売り切る」取引です。売った以上、その債権が回収できるかどうかのリスクは、買い取った事業者の側に移るのが筋です。ところが買戻特約が入っていると、いざ回収できないとなったときに、リスクが売った側の自社へ戻ってくる構造になります。この「戻ってくる」という点が、あとで見るように大きな論点になります。

この章の要点

買戻特約とは、譲渡した債権を一定の条件で自社が買い戻す約束です。売り切ったはずのリスクが自社に戻る仕組みで、契約書では「買戻」「再売買」など複数の言い回しで書かれます。

「売買」なのに買い戻す、という矛盾

買戻特約のいちばんの引っかかりは、取引の建て付けそのものと矛盾しかねない点にあります。ファクタリングは債権の売買を前提とした取引です。売買であれば、買い手(事業者)が代金を払って債権を手に入れ、その後の回収リスクは買い手が負う――これが売買の自然な形です。

本来の売買と、買戻特約が入った形

本来の売買|自社 →(債権を売る)→ 事業者 ※回収リスクは事業者が持つ
買戻特約あり|自社 →(売る)→ 事業者 →(回収できなければ買い戻させる)→ 自社

買戻特約が入ると、回収リスクが最終的に自社へ戻る。これは「お金を渡し、あとで回収できなければ返させる」という資金の貸し借りに近い形に見えてきます。

もし「売った債権が回収できなければ、自社がその分を払って引き取る」のであれば、事業者は実質的にリスクをほとんど負っていません。事業者が渡したお金は、いずれ自社から回収できる建て付けになっているからです。この形が、売買ではなく実質的な貸付(金銭の貸し借り)ではないかという評価につながります。ここは、契約書の見た目(「債権譲渡契約書」というタイトル)ではなく、お金とリスクが最終的にどう動くかで判断される部分です。

償還請求権とどう違うのか

買戻特約とよく似た言葉に「償還請求権(ウィズリコース)」があります。どちらも回収リスクが自社に戻るという結果は近く、混同されがちですが、契約上の建て付けが違います。

買戻特約 償還請求権(ウィズリコース)
建て付け 自社が債権を買い戻す(再売買) 事業者が自社に支払いを請求できる権利
お金の流れ 自社が買戻代金を払う 自社が請求された額を払う
結果 どちらも回収リスクが自社に戻る点は共通
見え方 条項として明示されやすい 「償還請求権あり」等と記載

言い方を変えると、償還請求権が「請求できる権利」という形でリスクを自社に残すのに対し、買戻特約は「買い戻す義務」という形で同じ結果をつくります。入口の言葉は違っても、たどり着く先(自社がリスクを負う)は近いのです。だからこそ、契約書ではこの2つのどちらか、あるいは両方が入っていないかを、あわせて確認する必要があります。償還請求権そのものの意味は、後掲の関連記事で詳しく扱います。

言葉が違っても中身で見る

「買戻」「償還請求」「支払保証」「連帯債務」など、条項の名前はさまざまです。名前で安心せず、売掛先が払わなかったときに、最終的に自社がお金を負担する定めがあるかという一点で読み解くのが確実です。

この章の要点

買戻特約は「買い戻す義務」、償還請求権は「請求できる権利」。入口は違っても、回収リスクが自社に戻るという結果は共通します。契約書では両方の有無を確認します。

契約書のどこに書かれているか

買戻特約は、契約書の目立つ場所に「買戻特約」と大きく書かれているとはかぎりません。むしろ、ほかの条項にまぎれて書かれていることがあります。読み飛ばさないために、次のような箇所に注意します。

買戻し・支払義務が隠れやすい場所

  • 「譲渡人の義務」「表明保証」の条項の中
  • 「売掛先が支払わない場合」「不履行の場合」を条件にした定め
  • 「再売買」「買取請求」「買戻請求」といった別の言葉の条項
  • 「支払保証」「連帯保証」「保証」と題した条項
  • 特約・覚書・別紙など、本文と別の紙に書かれた部分

ポイントは、「売掛先が支払わなかったとき、自社がどうなるか」を定めた文章をすべて拾うことです。その中に「買い戻す」「支払う」「補填する」といった、自社の金銭負担につながる言葉があれば、それが実質的な買戻し・償還の定めにあたる可能性があります。1つでも見つかったら、契約はその場でサインせず、内容を持ち帰って確認するのが安全です。

読むときは、条項の見出しだけで判断しないことも大切です。見出しが「その他」「雑則」となっていても、本文をたどると自社の買戻義務が定められている、というケースがあります。時間がかかっても、契約書と別紙のすべての文章に目を通すのが確実です。読み切れないほど条項が多い、あるいは表現が回りくどくて意味が取りにくいときは、その状態のまま署名しないでください。理解できない契約に署名しないことが、最も基本的で有効な自衛策です。

なぜ実質貸付と評価され得るのか

ここは慎重に読んでください。買戻特約が入っているからといって、その契約が直ちに違法と決まるわけではありません。ただし、金融庁は、ファクタリングを装いながら実態が貸付にあたる取引について注意を呼びかけています。買戻特約は、その「実態が貸付ではないか」を考える手がかりの一つとされることがあります。

断定はできない、という前提で

個々の契約が貸付にあたるかどうかは、条項ひとつだけでなく、取引全体の実態(リスクが誰に残るか、実質的な利回りはどうか等)から総合的に判断されるものです。本記事は一般的な情報であり、特定の契約への評価ではありません。自社の契約が心配なときは、弁護士や公的窓口に確認してください

なぜ買戻特約が論点になるのか。売買であれば回収リスクは買い手(事業者)に移るはずなのに、買戻特約があるとそのリスクが売り手(自社)に戻り、事業者はお金を出して確実に回収できる立場に近づくからです。「お金を渡して、あとで確実に返させる」という形は、性質として貸し借りに近いと見られ得ます。もし実質が貸付と評価される場合には、貸金業法や利息制限法・出資法といった枠組みとの関係が問題になり得ますが、その当てはめは個別の事案ごとの判断であり、ここで断定はできません。偽装ファクタリングの判別の全体像は、後掲の関連記事にゆずります。

この章の要点

買戻特約は、回収リスクを自社に戻す構造ゆえに「実質は貸付ではないか」を考える手がかりとされ得ます。ただし違法かどうかは取引全体の実態で判断され、条項だけで断定はできません。心配なら専門家へ。

買戻特約が資金繰りに与える影響

法的な評価とは別に、買戻特約は資金繰りの安定という実務面でも重い条項です。売掛債権を資金化する目的は、多くの場合「売掛先の入金を待たずに現金を得たい」「回収できないリスクを手放したい」ことにあります。買戻特約は、その後者の狙いを打ち消してしまいます。

リスク自社に戻る(手放せない)
買戻代金突然の資金流出になり得る
二重の負担支払い+買戻しが重なる恐れ

たとえば売掛先が支払えなくなった局面を考えます。本来のノンリコース(償還請求権なし)の取引なら、その損失は買い取った事業者が負い、自社は資金化した現金を手元に残せます。ところが買戻特約があると、売掛先が払えないうえに、自社が買戻代金まで用意しなければならない――収入が入らない一方で追加の支出が発生し、資金繰りが二重に悪化しかねません。もっとも苦しいときに、もっとも重い負担が来る形です。だからこそ、この条項の有無は、契約の入口で必ず確認しておく価値があります。

もう一つ見落としやすいのが、資金化した意味そのものが薄れる点です。手数料を払って債権を早期に現金化したのに、回収不能リスクは手元に残ったままなら、支払ったコストに対して得られたのは「入金の前倒し」だけになります。リスクを手放すぶんの対価として手数料を払っているつもりでも、買戻特約があるとその前提が崩れます。契約を比べるときは、手数料の率だけでなく、買戻し・償還といったリスク条項まで含めて総合的に見ることが、実質的な負担を見誤らないコツです。

「安いように見える」落とし穴

買戻特約や償還請求権が付いた契約は、事業者のリスクが小さいぶん、手数料が低めに提示されることがあります。しかし低い手数料は、リスクを自社が引き受けている見返りとも言えます。数字の低さだけで有利と判断せず、条項の中身とセットで比較してください。

見つけたときにどうするか

買戻特約や、それに類する自社の支払義務を見つけたときの対応は、落ち着いて次の順で進めます。あわてて署名しないことが、いちばんの安全策です。

  1. その場で署名しない|「持ち帰って確認します」と伝えるだけでよい
  2. 契約書(案)の控えをもらう|控えを渡さない事業者は、それ自体が危険信号
  3. 条項の意味を事業者に質問する|どんな条件で、いくら買い戻すのかを文書で確認
  4. 弁護士や公的窓口に相談する|判断に迷ったら、署名前に専門家へ

買戻特約は、必ずしもすべてが直ちに問題という意味ではありませんが、「売り切ったはずのリスクが自社に戻る」という重要な事実を含みます。内容を理解しないまま署名しないこと、そして少しでも不安があれば立ち止まることが大切です。困ったときの相談先としては、法テラス、金融庁、日本貸金業協会、消費生活の相談窓口などがあります。

よくある誤解

買戻特約があっても「債権譲渡契約書」なら売買だ
タイトルではなく、お金とリスクの実態で判断されます。回収リスクが自社に戻る建て付けなら、実質は貸付と評価され得ます。
買戻特約と償還請求権は同じものだ
建て付けは別です。買戻特約は「買い戻す義務」、償還請求権は「請求できる権利」。ただし、リスクが自社に戻る結果は共通します。
買戻特約があれば必ず違法だ
条項ひとつで違法とは断定できません。違法かどうかは取引全体の実態から判断されます。心配なときは弁護士や公的窓口へ。
署名してしまった以上どうにもならない
契約に不安があるなら、まず専門家に相談してください。事情によって取り得る対応があり得ます。一人で抱え込まないことが大切です。
口頭で「買戻しはしない」と言われたから安心だ
口頭の説明より、契約書に何が書かれているかが優先します。書面に買戻し・支払義務が残っていないかを確認します。

確認チェックリスト

契約書に署名する前に

  • 「買戻」「再売買」「買取請求」などの言葉がないか読んだ
  • 「売掛先が支払わない場合」を条件にした自社の支払義務がないか確認した
  • 「償還請求権」の有無もあわせて確認した
  • 特約・覚書・別紙など本文以外の紙もすべて読んだ
  • 買い戻す条件・金額・時期が具体的に書かれているか確認した
  • 契約書(案)の控えを受け取った
  • 不明な条項は、署名せず持ち帰って専門家に相談した
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よくある質問

Q. 買戻特約は、あってはいけない条項なのですか
一律に「あってはいけない」とまでは言えませんが、売り切ったはずの回収リスクが自社に戻る重要な定めです。内容を理解しないまま署名せず、条件や金額を確認し、不安があれば署名前に専門家へ相談してください。
Q. 買戻特約と償還請求権は、両方入っていることもありますか
契約によってはあり得ます。言葉が違っても「売掛先が払わないとき自社が負担する」という結果は近いので、両方の有無をあわせて確認するのが安全です。
Q. 契約書に「買戻」という言葉がなければ安心ですか
言葉がなくても、「再売買」「買取請求」「支払保証」など別の表現で同じ内容が書かれていることがあります。名前ではなく、自社の金銭負担につながる定めがないかで確認します。
Q. 買戻特約があると、その契約は違法なのですか
条項ひとつで違法とは断定できません。違法かどうかは取引全体の実態から総合的に判断されるもので、個別の評価は弁護士や公的窓口の確認が必要です。金融庁も、実態が貸付にあたる取引に注意を呼びかけています。
Q. 買戻しを求められる条件は、契約書に必ず書いてありますか
明確に書かれているとは限りません。条件・金額・時期があいまいなまま買戻義務だけが定められている場合は、書面での明確化を求め、それでも不透明なら署名を見送ることも検討します。
Q. すでに買戻特約つきの契約に署名してしまいました
まずは契約書一式をそろえ、弁護士や公的窓口(法テラスなど)に相談してください。事情によって取り得る対応は異なります。一人で判断せず、早めに専門家に相談することが大切です。
Q. どこに相談すればよいですか
契約や取引の適法性に不安があるときは、弁護士のほか、法テラス、金融庁の相談窓口、日本貸金業協会、消費生活の相談窓口などがあります。被害や悪質性を感じる場合は警察への相談も選択肢です。

出典

  1. 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」https://www.fsa.go.jp/
  2. e-Gov法令検索(民法の債権譲渡、利息制限法、出資法、貸金業法)https://laws.e-gov.go.jp/
  3. 日本貸金業協会https://www.j-fsa.or.jp/
  4. 法テラス(日本司法支援センター)https://www.houterasu.or.jp/

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