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調達ラウンドの合間の「デスバレー」を現金でどう埋めるか

前のラウンドの資金が尽き、次の調達がまだ決まらない——この谷を越えられずに終わるスタートアップは少なくありません。デスバレーの正体と、現金でどう埋めるかを具体的に示します。

公開:2026年7月23日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. デスバレーとは何か
  2. なぜラウンドの合間に谷ができるのか
  3. 谷の深さは3つの数字で決まる
  4. 谷が来る月を先に特定する
  5. 埋め方は「時間」で選ぶ
  6. まず支出を止める|バーンを削る
  7. 次に入金を早める|眠っている現金を動かす
  8. それでも足りないぶんを外から入れる
  9. やってはいけない埋め方
  10. 実例で読む|谷を越える3か月
  11. よくある誤解とチェックリスト

デスバレーとは何か

スタートアップの資金は、調達で山を作り、事業を回しながら少しずつ削れていきます。前のラウンドで入れた現金が底をつきかけているのに、次の調達がまだ決まっていない——この「前の資金の枯渇」と「次の資金の着金」のあいだにできる現金の谷を、デスバレー(死の谷)と呼びます。

厄介なのは、事業そのものは伸びていても、この谷で現金が尽きれば会社が止まる、という点です。プロダクトが良くても、次のラウンドの手応えがあっても、着金の前に口座がゼロになれば、給与も家賃も払えません。谷を越えることと、事業を伸ばすことは、別の課題です。この記事は前者、つまり「次の調達までの数か月を、現金でどう食いつなぐか」だけに絞って扱います。

この章の要点

デスバレーは前ラウンドの資金枯渇と次ラウンドの着金のあいだにできる現金の谷。事業の良し悪しとは別に、ここで現金が尽きれば会社は止まります。越えるべきは「着金までの数か月」という時間です。

なぜラウンドの合間に谷ができるのか

谷ができるのは、スタートアップの資金構造が「先に使い、後で回収する」形だからです。調達した現金は、採用・開発・在庫といった先行投資に回り、売上が追いつくまでは毎月一定額が減り続けます。この減り方(バーンレート)がある限り、次の調達がなければいつか底を打ちます。

そして次のラウンドは、思ったより時間がかかります。投資家との面談、条件のすり合わせ、デューデリジェンス、契約——このプロセスは数か月単位で動くのが普通で、経営者が「決まりそうだ」と感じてから実際に着金するまでには、さらに時間差があります。この「バーンで減り続ける現金」と「時間のかかる次の調達」が噛み合わないところに、谷が生まれます。

「決まりそう」は現金ではない

投資家の口頭の前向きな感触や、条件を詰めている最中の内定は、着金するまで一円も口座には入りません。谷を埋める計画は、内定の手応えを当てにせず、あくまで「いま口座にある現金」と「確実に入る現金」だけで組みます。当てにしていた出資が遅れる・流れることは、実際に起こります。

谷の深さは3つの数字で決まる

デスバレーがどれくらい危険かは、感覚ではなく数字で測れます。効くのは3つです。

数字 意味 谷への効き方
手元現金 いま自由に使える現金の残高 多いほど谷は浅くなる
バーンレート 1か月あたり純減する現金(出−入) 大きいほど谷は深く・急になる
次の着金までの月数 次ラウンドが着金するまでの見込み期間 長いほど谷は広くなる

この3つから、谷を越えられるかどうかの目安が出ます。手元現金 ÷ バーンレート=あと何か月もつか(ランウェイ)。このもつ月数が、次の着金までの月数より短ければ、その差のぶんだけ現金が足りません。

谷の深さ=足りない現金

(次の着金までの月数 − 手元現金 ÷ バーン)× バーン = 不足額

たとえば手元3,000万・バーン月500万なら、もつのは6か月。次の着金が9か月先なら、3か月ぶん=約1,500万が谷の底で足りません。この額を埋めるのが目標になります。

ランウェイそのものの計算式や、動き出すべき危険水域のラインは踏み込むと長くなるため、あわせて読むの「ランウェイの計算方法」に譲ります。ここでは「谷の深さ=足りない現金の額」を出すところまでを押さえておけば十分です。

この章の要点

谷の深さは手元現金・バーンレート・次の着金までの月数の3つで決まります。もつ月数が着金までの月数より短ければ、その差ぶんの現金が谷の底で足りません。まずこの不足額を数字で出します。

谷が来る月を先に特定する

不足額が分かったら、次は「何月に、いくら足りなくなるか」をカレンダー上で特定します。谷は平らではありません。税金の納付、賞与、大きな支払いが重なる月に、一段深くえぐれます。

やることは、これから半年〜1年ぶんの現金の出入りを、月ごとに並べることです。各月について「前月末残高 + 入る現金 − 出る現金 = 月末残高」を計算し、月末残高の行を横に追うと、どの月に何色に沈むかが見えます。この並べ方=資金繰り表の作り方は本サイトの別記事で詳しく扱っているため、ここでは深追いしません。

いちばん深い月を基準にする

埋める金額は、平均の不足ではなくいちばん深く沈む月の不足額に合わせます。年間ならプラスでも、賞与と納税が重なる1か月だけマイナスに沈む、ということは普通に起きます。その谷の底を越えられなければ、他の月がいくら黒字でも会社は止まります。

埋め方は「時間」で選ぶ

谷の底と、そこまでの猶予が分かったら、埋め方を選びます。選ぶ基準は「あと何か月あるか」です。手が早く効くものほどコストが高く、遅く効くものほど安い、という関係があるからです。

猶予 まだ打てる手
3か月以上前 バーンを削る/入金を早める/融資と、ほぼ全部の手が打てる
1〜2か月前 融資は間に合いづらい。入金の早期化や短期資金が中心
数週間前 売掛債権の資金化など、最短で効く手に限られる(コストは高い)

ここから導ける原則はひとつです。谷は早く見つけるほど、安く埋められる。だから順番は、コストの安い順=「①支出を止める → ②入金を早める → ③外から入れる」で考えます。以下、この順に見ていきます。

まず支出を止める|バーンを削る

いちばん確実で、コストがゼロなのが、出ていく現金を減らすことです。谷を越えるあいだだけ、バーンレートを一時的に落とします。効くのは、金額の大きい費目から順です。

費目 削り方の例 効き
採用 谷を越えるまで新規採用を止める・時期をずらす
外注・広告 成果が出るまで時間のかかる投資を後ろ倒す 中〜大
固定費 オフィス・ツールなど、当面なくても回るものを止める 小〜中
経営者報酬 谷のあいだだけ一時的に下げる 小〜中

バーンを1か月あたり削れれば、その効果はランウェイ全体に効きます。月のバーンを500万から400万に落とせば、同じ手元現金でもつ月数が伸び、谷そのものが浅くなります。外から資金を入れる前に、まずここを削れるだけ削るのが鉄則です。ただし、成長の芯まで削ると次のラウンドのストーリーが弱くなるため、「越えるあいだだけの一時的な削減」と「恒久的な縮小」は分けて考えます。

この章の要点

最優先はコストゼロのバーン削減。採用・広告・固定費・報酬を、金額の大きい順に一時的に落とします。バーンが下がれば谷は浅くなり、外から入れる額も減ります。成長の芯まで削らないのが条件です。

次に入金を早める|眠っている現金を動かす

支出を絞っても足りないなら、次はすでに自社のものである現金を、早く手元に持ってくる手です。新たに借りるわけではないので、外部からの調達より軽く済みます。

とくに、すでに売上が立っていて入金待ちの売掛金があるなら、それを期日前に現金化すれば、谷の底の1か月をしのげることがあります。売掛債権の資金化は最短で即日効く一方、コストは融資より高いので、谷の直前で他に手がないときの選択肢です。売掛金がどれくらい資金化しやすいか、いくら手元に残るかは、記事末の診断で確かめられます。

それでも足りないぶんを外から入れる

支出を絞り、入金を早めてもなお埋まらない谷は、外から資金を入れて越えます。ここでも安い順に検討します。

手段 性格 谷での使いどころ
融資(公庫・保証協会付き等) 返済のある借入。コストは低い 谷まで2〜3か月あるとき。最も安く埋められる
株式を薄めない借入 エクイティを前提にした借入など 株式の希薄化を避けつつ、次ラウンドまでをつなぐ
売掛債権の資金化 売掛金の早期化。最短即日 融資が間に合わない、谷の直前のとき
コンバーティブルでの追加出資 評価額を今決めずに入れる出資 既存投資家等から、当座を薄めずに入れる

融資は申込から着金まで数週間〜2か月かかるため、谷まで余裕があるうちに動けば、最も安く埋められます。この時間軸の判断や、公庫・保証協会それぞれの申込タイミングは制度ごとに条件が変わるので、最新の公式情報と金融機関への確認が前提です。谷が近く融資が間に合わないぶんだけを、資金化などの早く効く手で埋める——この順序が、越えるためのコストを最小にします。

エクイティで谷を埋めるのは高くつきやすい

当座の数か月をしのぐためだけに、いまの評価額で新株を発行すると、必要以上に株式を手放すことになりがちです。とくに次ラウンドが伸びる見込みなら、安い今の株価で薄めるのは損です。当座のつなぎは借入・資金化・評価額を固定しない手段で、成長投資は次のラウンドで——という切り分けの原則があります。

やってはいけない埋め方

焦って谷を埋めようとすると、越えた先で自分の首を絞める手を選びがちです。避けたいのは次のような埋め方です。

谷を埋める手は、「越えた先の会社を弱くしないか」で選びます。目先の1か月を越えるために、その先の成長やラウンドの条件を犠牲にしては本末転倒です。

実例で読む|谷を越える3か月

数字で見ます。手元現金3,000万円・月商400万円・バーン(純減)月500万円の会社が、次ラウンドの着金を9か月先に見込んでいる、という設定です。何もしなければ6か月で現金が尽き、着金までの3か月が谷になります。

谷の底(単位:万円・数字は設定例)
状態 もつ月数 着金9か月目まで
何もしない(バーン500) 6か月 3か月・約1,500不足
①バーンを400に削減 7.5か月 1.5か月・約600不足
②入金前倒しで+300 実質さらに0.6か月 残り約300不足
③残り300を融資で補填 着金まで到達 谷を越える

同じ谷でも、いきなり外部調達に走らず①削る→②早める→③足りないぶんだけ借りると進めると、外から入れる額は1,500から300まで下がります。エクイティを薄めずに越えられる、という差になります。

この表の要点は、3,000万をまるごと外から調達する必要はなかったことです。バーンを削り、入金を早めた残りだけを、最も安い融資で埋める。順番を守るだけで、越えるコストも株式の希薄化も最小になります。

3か月この例の谷の幅
①→②→③安い順に埋める
1,500→300外部調達を減らせた
売掛金でいくら谷を埋められるか確かめる

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よくある誤解

事業さえ伸びていれば谷は越えられる
事業が良くても、着金の前に現金が尽きれば会社は止まります。谷を越えることと事業を伸ばすことは別の課題です。
次の調達が「決まりそう」なら安心だ
内定や前向きな感触は、着金するまで現金にはなりません。遅れる・流れる前提で、手元にある現金だけで谷の計画を組みます。
谷は外から資金を入れて埋めるものだ
最初に効くのはコストゼロのバーン削減と入金の早期化です。外部調達は、それでも足りないぶんだけに絞ります。
当座しのぎでも増資すればいい
数か月のために安い株価で増資すると、必要以上に株式を手放します。当座は借入・資金化、成長投資は次ラウンド、と分けます。
谷は直前になってから対処すればいい
直前ではコストの高い手しか残りません。2〜3か月前に気づけば、最も安い融資で埋められます。早く見つけるほど安く越えられます。

谷を越えるチェックリスト

谷が見えたら順に確認する

  • 手元現金 ÷ バーンで、あと何か月もつかを出した
  • 次の着金までの月数と比べ、不足額を計算した
  • いちばん深く沈む月(納税・賞与が重なる月)を特定した
  • 採用・広告・固定費・報酬を、一時的に削れるだけ削った
  • 着手金・前受金・請求前倒しで、入金を早めた
  • 残った不足だけを、まず安い融資で埋める順にした
  • 選んだ手が、越えた先の会社を弱くしないか確かめた

よくある質問

Q. デスバレーはランウェイと何が違いますか
ランウェイは「手元資金があと何か月もつか」という残り時間で、デスバレーは「前の資金が尽きてから次が着金するまでの、現金が谷になる期間」です。ランウェイが次の着金までの月数より短いと、その差ぶんが谷になります。計算方法は「ランウェイの計算方法」の記事をご覧ください。
Q. 谷はどれくらい前に気づけば間に合いますか
融資で埋めるなら2〜3か月前が目安です。申込から着金まで数週間〜2か月かかるためです。直前になるほど、コストの高い手段しか残らなくなります。
Q. まず何から手をつけるべきですか
コストゼロのバーン削減からです。採用・広告・固定費を一時的に落とすと谷が浅くなり、外から入れる額も減ります。次に入金の早期化、それでも足りないぶんを外部調達、という順序が最も安く済みます。
Q. 当座のために増資するのは避けるべきですか
数か月をしのぐためだけに今の評価額で新株を発行すると、必要以上に株式を手放しがちです。とくに次ラウンドが伸びる見込みなら、当座は借入や売掛金の資金化でつなぎ、成長投資を次のラウンドに回す切り分けが有効です。
Q. 赤字でも谷を埋める資金は調達できますか
成長投資による赤字であれば、評価される手段があります。ただし制度や審査は個別事情によります。適用可否は金融機関や専門家への確認が前提です。
Q. 売掛金の資金化はいつ使うのが正解ですか
融資が間に合わない、谷の直前のときです。最短で即日効きますが、コストは融資より高くなります。手取り額を確かめてから使うのが安全で、記事末の診断でおおよその目安を確認できます。
Q. バーンを削ると次の調達に不利になりませんか
成長の芯(開発や主力の採用)まで削ると、次ラウンドの説得材料が弱くなります。「越えるあいだだけの一時的な削減」と「恒久的な縮小」を分け、芯は残して周辺から削るのが基本です。
Q. 谷を越える資金計画は投資家に見せてもいいですか
むしろ有効なことが多いです。いつ・いくら足りず、どう埋めるかを数字で示せると、資金管理ができている会社だと伝わります。共有する粒度は相手や段階によって調整します。

出典

  1. 中小企業庁「資金繰り・資金調達に関する情報」https://www.chusho.meti.go.jp/
  2. 日本政策金融公庫(融資制度に関する一般情報)https://www.jfc.go.jp/
  3. 手数料水準は本サイト掲載102社の公表値(2026年7月時点)にもとづく

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